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「持続可能な開発」と循環経済

原 強 

1 「持続可能な開発」概念の展開

 20世紀文明の「負の遺産」ともいうべき環境問題が顕在化するなかで、人類は「持続可能な開発」(Sustainable Development)という概念を見つけました。

 この「持続可能な開発」という概念は、1987年にまとめられた「環境と開発に関する世界委員会」の報告で「将来の世代の欲求を充たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」と定義されました。1992年、リオで開催された「地球サミット」は、この概念を「気候変動枠組条約」「生物多様性条約」「アジェンダ21」などの環境政策に具体化する機会になりました。これ以来、日本でも「持続可能な社会」という目標が掲げられ、さまざまな取組みがすすめられてきました。

2015年、これらの取組みに転機が訪れました。気候変動に関する国際交渉のなかで「京都議定書」につづく「パリ協定」が採択され、他方で「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択されたのです。これを機に、国際的にも、国内的にも、「パリ協定」とSDGsをふまえた多彩な取組みが開始されています。

 

2 「持続可能な開発」と廃棄制約

 「持続可能な開発」の概念が形成された当時、まずイメージされたのが資源の枯渇という問題でした。たとえば、「石油資源はあと何年採掘可能なのか」といった問題のとらえ方です。経済発展を支える資源は無限に存在するわけではなく、限られたものだという認識をもつ必要があるという議論が繰り返されたように記憶しています。「将来の世代の欲求を充たしつつ、現在の世代の欲求も満足させる」資源の活用ということが問われたわけです。また、資源問題を考えてみると、必要とされる資源はどこにでもあるのではなく、地理的に偏在しており、しかも政情が安定しない地域に存在するものが多いという問題もありました。

 このような資源問題がすべて解決したわけではありませんが、現在、「持続可能な開発」について考えるとき、廃棄制約という問題が浮かび上がっているのです。

すなわち、これまでは生産活動や消費活動を考えるとき、そこで発生する廃棄物を排出することについて特別に制約はないものとされてきたかもしれませんが、「持続可能な開発」という考え方からすると、自然や生態系が受け入れてくれる以上の廃棄物は排出できないということになるのです。

環境経済学の関係者は「いまや廃棄制約の時代だ」と強調するようになりました。

 

3 廃棄制約の事例

 廃棄制約ということが問題にされる事例をいくつかあげてみます。

 

事例1 CO2の排出制約

 気候変動問題が深刻化するなかで、「気候変動枠組条約」のもとで「京都議定書」、さらに「パリ協定」へと国際的な取組みが進められてきました。国際的な合意の到達点である「パリ協定」では、地球の温度上昇を2℃未満に、できれば1.5℃以下におさえること、そのためにはCO2の排出量を21世紀後半には実質ゼロにしなければならないとされました。さらにIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は「1.5℃レポート」を発表し、地球の温度上昇を1.5℃までで抑えることの重要性・緊急性を訴えています。その実現可能性については容易なことではありませんが、それが達成されてこそ地球環境問題の未来がひらけるものとうけとめ、CO2排出抑制の取組みを加速しなければならないのです。その場合、化石燃料の消費抑制とあわせて再生可能エネルギーの活用をすすめることが重要です。

 

事例2 プラスチック廃棄物の排出制約

 懸案の課題であったプラスチック廃棄物の適正処理の課題があらためて急浮上してきました。とりわけ海洋プラスチック汚染問題は国際的に解決が迫られる緊急課題になっています。

日本政府としても「G20」議長国としてこの問題の解決にあたるために「プラスチック資源循環戦略」「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」などを相次ぎ発表したのに加え、具体的な行動目標として来年4月1日、プラスチック製のレジ袋無料配布の禁止の方向を示しました。レジ袋使用量の多いコンビニ業界などの対応が迫られていますが、この問題については消費者の行動スタイルの変化も求められるところです。

 プラスチックごみのリサイクルの課題についても、中国のプラスチックごみ輸入規制など、海外でリサイクルすることがむつかしくなりました。さらに、有害廃棄物の越境移動を規制するバーゼル条約でも「汚れたプラスチック廃棄物」を規制対象にするということになり、いよいよ期限を明確にした国内対策が必要になっています。

 

事例3 放射性廃棄物の廃棄制約

 原発事故にともなう放射性物質の拡散という事態は、福島原発事故の経験と教訓をふまえるならば「絶対悪」として対処しなければならないものですが、通常の原発の運転にともなう使用済み核燃料の処理についても「核燃料サイクル」として推進されてきたシステムが完全に行き詰まっているなかで根本的な見直しが課題になっています。巨額の資金を投入してきた六ケ所村の使用済み核燃料再処理システムは稼働せず、「もんじゅ」にいたってはもはや計画中止せざるをえない状態なのです。

 原発の利用については、これまで以上に安全対策がもとめられるだけでなく、放射性廃棄物の廃棄制約の時代にあることを直視すべきなのです。

 

4 循環経済のすすめ

このような廃棄制約の事例からも、循環経済の発展を通じて「持続可能な開発」をすすめることがとても重要になっていることが理解できるのではないでしょうか。

私たちの「京都循環経済研究所」では、「循環経済」という用語には、「資源循環」という意味とともに、「地域循環」という意味をこめています。

「資源循環」とは、大量生産・大量消費文明への反省をふまえ、限りある資源を大切に利用し、無駄な廃棄を極力回避することにより、循環型社会の形成を推進しようとするものですが、この点でも廃棄制約という視点からの取組み強化が求められることです。

また、「地域循環」とは、地域のさまざまな資源を活用し、地域で「お金」が回り、地域が元気になることを目標にしているものです。各地ですすめられているモデルに学びながら、具体的な提案ができないものかと思います。最近、地域の再生可能エネルギーを活かすための取組みがひろがっています。そこにはおおいに学ぶべきことがあるようです。

私たちは、「循環経済」という概念にこだわり、事業者、行政、消費者・市民のパートナーシップ型の取組みが広がっていくことを願っています。