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ブックガイド『SDGs入門』

 

村上芽・渡辺珠子著『SDGs入門』

 

SDGs(持続可能な開発目標)は2015年9月の国連サミットで採択された。

 

それ以来すでに4年が経過し、SDGsとはどんなものかという紹介の段階から、SDGsの考え方や目標を企業や組織の活動にどのようにとりいれるのか、具体的に何から始め、どのように実践していくべきかという段階に来ている。そのための講演会やセミナー等も数多く開催されている。

 

本書も、そのような場で講師を担当してきた二人が、受講者の関心や疑問に応えるなかで、これが必要だと吟味してきたものをコンパクトにまとめあげたものと思われる。基本的にはSDGsを企業経営活動にとりいれようとする経営者や担当者向けのものといえるが、SDGsについて考えようとする人ならだれでも一読してよいものといえる。

 

著者二人のSDGsの基本的な捉え方は「おわりに」で「SDGsは、人類共通の課題に対して官民あげて全力で取り組まなければ、これ以上豊かな世界の維持・発展が望めないという危機感から生まれています。平和、貧困、医療、水、エネルギー、まちづくり、環境、災害対策など、先進国も途上国も問わない内容からなり、企業による社会への影響力を強く意識しています。SDGsのそれぞれの目標は、いわば、2030年に向けた世界共通の成長戦略だといえます。SDGsには、企業経営の視点からは、事業開発・拡大、人材獲得、コミュニケーションツールとしての魅力を感じることができます。また、最近広がっているESG(環境、社会、ガバナンス)投資との関係も深く、上場企業に加えて非上場企業にもSDGsの取組みがひろがっています。」と示されている。このような捉え方が「第1章 まずはSDGsを理解しよう」「第2章 SDGsとビジネスはどう結び付いているのか」という部分で解説されるのである。

 

「第3章 SDGsに取組むときのヒント」では、「SDGsコンパス」や環境省の「SDGs活用ガイド」などの「手引き」の紹介と同時に、トップの関与、会社の経営理念との整合性などについて解説される。私の経験からすると、ここでISOやCSRとの関係についてもう少しつっこんだ解説があってもよいのではないかと思った。とくにCSRの取り組みからSDGsにアプローチするパターンも少なくないように思うからである。

 

「第4章 SDGsにビジネスで貢献する」で、実際にSDGsに取組む場合に留意すべき点が解説される。おそらく著者がワークショップなどで開発し、磨き上げてきたものとおもわれる「ロジックモデル」からSDGsのゴールに向かう手法の解説は、本書のポイントであろう。

 

「第5章 SDGsの取り組みテーマを選ぼう」では具体的なテーマや目標の設定につながる「テーマ」が解説される。「こんなことだったらできそうだ」という「気づき」を与えてくれる部分である。

 

著者はいずれも株式会社日本総合研究所の「創発戦略センター」の研究員である。シニアマネージャーの村上芽は「企業のESG評価」や気候変動リスクと金融などが専門分野だという。スペシャリストの渡辺珠子は「中国及びインドにおける環境・省エネルギー市場調査及びビジネス立ち上げ支援」などに注力しているという。

 

(日本経済新聞出版社・日経文庫 2019年6月 900円+税)