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「環境ホルモン」問題、その後

 

「環境ホルモン」問題、その後

 

原  強

 

1997年から98年にかけての「環境ホルモン」問題の報道は「ごみ焼却施設からダイオキシン」という報道とあわせてとても衝撃的でした。ところが、この問題は、いつの間にか話題にならなくなってしまいましたが、あれはどういうことだったのかという思いをずっともってきました。いまあらためて「化学物質による環境汚染」問題を考えるのであれば、どうしてもとりあげておきたい問題だと思っています。

 

これからこの問題について調査研究を行うことにしたいと思いますが、そのための予備作業として、以下、情報整理をしてみます。

 

 

 

一 「環境ホルモン」問題とは

 

1 「化学物質リスク研究会」報告書から

 

 最初に「環境ホルモン」問題とはどういうことであったのかについておおよそのことを理解していただくために、「化学物質リスク研究会」報告書から「3 環境ホルモンについて」の部分を、やや長くなりますが、そのまま引用します。

 

 

 

1)環境ホルモンとは

 

『奪われし未来』などでとりあげられて以来、環境ホルモンの問題は、環境汚染によるリスクを考えるときに避けてとおれない問題になりました。

 

環境ホルモンとは、「外因性内分泌かく乱化学物質」といわれるように、人間が外部から摂取するもので、内分泌のはたらきをかく乱し、それを通じて健康障害をもたらす化学物質のことです。この問題は、これまでは科学的に未知の領域にあったものですが、最近、急ピッチで研究がすすめられ、次第にその内容が明らかにされてきました。

 

2)環境ホルモンによる健康障害の特徴

 

環境ホルモンの作用メカニズムについては、多くの場合に本来正常ホルモンが結合すべきレセプターに環境ホルモンが結合することによって遺伝子のはたらきが異常なものになってしまうという観点から研究がすすめられています。環境ホルモンのはたらきをもつとされる化学物質は、その化学構造やはたらきがエストロゲン(女性ホルモン)によく似ていることから注目されているものが多いのですが、最近ではアンドロゲン(男性ホルモン)やチロキシン(甲状腺ホルモン)のはたらきをかく乱するものについても研究が活発になってきました。

 

環境ホルモンによる健康障害は、各種の動物実験の結果から、生殖毒性、発生毒性、免疫毒性、行動毒性、発がん性などの多様なかたちで現れることが明らかにされていますが、とくに微量の投与によって障害が生ずるケースが多いのが特徴です。

 

3)くらしの中の環境ホルモン

 

 このような環境ホルモンのはたらきをもつのではないかとされる化学物質は、これまでにいくつかの研究機関によって報告され、その数は少なくとも70種におよんでいます。それらには、くらしの中で使用されているものも少なくありません。たとえば、ポリカーボネート樹脂やエポキシ樹脂に含まれるビスフェノールA、発泡スチロール等に含まれるスチレン関連物質、おもちゃ・日用品をはじめとする多くのプラスチック製品の可塑剤として使用されているフタル酸エステルなどが問題視されています。それらが食器や包装容器から食品中に溶出してくるからです。

 

 また、環境ホルモンの多くが殺虫剤、除草剤などの農薬であり、環境に大量に散布されていることも注意したいことです。

 

 最近人尿から女性ホルモンのエストラジオール、エチニルエストラジオールが検出されている問題については、ホルモン剤や避妊薬との関連があるのではないかとされています。

 

4)野生生物と人間の発生・生殖異常

 

 前記の動物実験で見られるのと類似した健康障害(妊娠率とふ化率の低下、生殖行動異常、精巣下降不全、オスのメス化など)が、近年、野生生物についても広く観察されており、多くが環境ホルモン汚染に由来すると推測されています。

 

また、同様の発生・生殖異常、たとえば精子の減少、尿道下裂、精巣がん、乳がんなどの増加が人間の健康障害の事例として報告されており、やはり環境ホルモンとの関係が疑われています。

 

5)予防原則からの対処を

 

 以上のように、まだまだ未解明のことが多く含まれる問題であるとはいえ、回復不能の不可逆的な影響が出る心配があること、とくに世代を超えて問題が顕在化するおそれがあることから、予防原則にもとづいてリスクを大幅に削減する努力が望まれます。

 

(以上、「化学物質リスク研究会」報告書からの引用)

 

2 『奪われし未来』について

 

 少し情報を補足しておきます。

 

 まず、問題の発端となった『奪われし未来』についてです。原題はOUR STOLEN FUTURE、著者はシーア・コルボーン(世界自然保護基金の科学顧問、ワシントン在住)、ダイアン・ダマノスキ(ボストン在住のジャーナリスト)、ジョン・ピーターソン・マイヤーズ(オルトーン・ジョーンズ財団代表)。1996年に出版。日本語訳は、1997年9月、翔泳社から出版されました。

 

『奪われし未来』が問題にしていることのあらましは、アル・ゴア(当時、アメリカ副大統領)の序文から知ることができます。以下、大事だと思われる部分を引用しておきます。

 

 

 

  ・『奪われし未来』は、レイチェル・カーソンが三十年前に取り上げたのと同じくらい深刻な問題を提 起しており、これには国民一人ひとりが答えてゆかねばならないだろう。

 

  ・本書は、多様な合成化学物質が、ホルモン分泌系の繊細な作用をどのように撹乱してい

 

  るのかを鮮やかに描いたわかりやすい研究報告である。このホルモン分泌系とは、性発達 

 

  から行動、知性、免疫系のはたらきにいたる幅広い領域で重大な役割を果たしている生体

 

  システムだ。――動物やヒトを対象にした初期研究ではすでに、合成化学物質とさまざま

 

  な現象との関連性が指摘されていた。精子数の減少、不妊症、生殖器異常、乳がんや前立

 

  腺がんなどのホルモンに誘発されたがん、多動症や注意散漫といった子どもに見られる神

 

  経障害、そして野生生物の発達および生殖異常。およそ、こんな現象が問題視されていた

 

  のである。

 

  ・本書は、きわめて意義深い書物である。すでに地球上に蔓延してしまっている合成化学

 

  物質について、新たな問いを立てよと迫っているからだ。人類の行く末を真剣に考えるの

 

  なら、この問いには早急に答えていかねばならないだろう。私たち一人ひとりには、知る

 

  権利と同時に、学ぶ義務もあるのだから。

 

 

 

3 「ウイングスプレッド宣言」

 

 『奪われし未来』の論述の背景には、1991年7月にこの問題に関わる研究者があつまり、化学物質によるホルモン作用の撹乱について検討し、とりまとめられた「ウイングスブレッド宣言:ヒトおよび野生生物の性発達に及ぼされる化学物質の影響」があります。

 

この「宣言」では、概略、以下のようなことが指摘されています。

 

 

 

  ・環境内へ放出された合成化学物質には、ヒトをはじめとする動物の内分泌系を撹乱する作用がある。

 

  ・問題の合成化学物質には、一部の農薬(殺菌剤、除草剤、殺虫剤)、産業化学物質、合成製品、および一部の金属がふくまれている。

 

  ・こうした影響はすでに多くの野生生物の個体群に及んでいる。

 

  ・具体的な影響は以下のとおりである。

 

      鳥および魚類における甲状腺機能不全

 

      鳥、魚、貝および哺乳類における生殖能力の減退

 

      鳥、魚、カメの孵化率の低下と重篤な先天性欠損

 

      鳥、魚、哺乳類における新陳代謝異常

 

      鳥の異常行動

 

      鳥、魚、哺乳類のオスにおける「メス化」

 

      鳥、魚のメスにおける「オス化」

 

      鳥および哺乳類における免疫不全

 

     (「前兆」の章でとりあげられた事例はまさにこれらの実証事例である)

 

  ・ヒトも同じく、この種の合成化学物質の影響をこうむっていると考えられる(胎内でのDES暴露の例など)。

 

  ・環境内に蔓延しているホルモン作用撹乱物質の量を削減・規制しないかぎり、個体群レベルでの重篤な機能不全が生じるおそれがある。

 

 

 

4 『奪われし未来』(増補改訂版)の出版

 

 『奪われし未来』は、出版5年後、最後の3章分が加筆され、その「増補改訂版」が出版されました。そこには、出版されて以降、化学物質による内分泌の攪乱の健康影響があるのではないかという主張に対し、評論家や化学工業会側から「根拠」がないただの「思い過ごし」で「人騒がせ」な話だという批判があげられたことを紹介しながら、「脳と発達への影響」「免疫力の低下」「ヒトの生殖能力への警鐘」など、この問題についての調査研究がより深掘りされ、より多面的に検討がすめられていることが紹介されています。

 

 「増補改訂版」の巻末に、岡崎国立共同研究機構・統合バイオサイエンスセンター・生命環境領域の井口泰泉による「解説」、第3回内分泌攪乱化学物質問題に関する国際シンポジウム(2000年12月)の紹介記事が付けられましたが、これらによって日本の研究者がこの問題をどのように受け止め、対処しようとしていたのかを理解することができます。

 

 

 

二 「環境ホルモン」問題についての政府の対応

 

1 「SPEED98」

 

 『奪われし未来』の出版後、「環境ホルモン」問題は、関連出版物の相次ぐ発行、メディアの報道により多くの人が関心を寄せる問題になりました。他方で、同じ時期にごみ焼却施設からダイオキシンが検出されたのを機にダイオキシン問題が表面化したのと相まって、化学物質による環境汚染、人体への影響への不安が高まるなかで、この問題について政府の対応がもとめられることになりました。

 

 環境庁は、1997年3月、「外因性内分泌攪乱化学物質問題に関する研究班」を設置しました。

 

1997年7月、同研究班による中間報告書がまとめられたのをふまえ、この問題についての「基本的な考え方」と対応方針等が整理され、1998年5月、「環境ホルモン戦略計画」(SPEED98)が発表されることになりました。

 

「SPEED98」が示した基本的な考え方と対応方針は、つぎのようなものでした。

 

(基本的な考え方)

 

内分泌攪乱化学物質問題については、科学研究の分野においてはいまだ緒についたばかりであり、科学的には不明な点が多々残されている。しかし、これまでの科学的知見が指し示すように、人間及び生態系に取り返しのつかない重大な影響を及ぼす危険性をはらんだ問題である。本問題への対応に当たっては、後世代に安全な環境を確保することをめざし、我々がおかれている環境がもたらす様々な経路を通じたリスクを総合的に評価し、それに基づいて有効な対策を策定することが基本となる。

 

 (対応方針)

 

  1 環境汚染の状況、野生動物等への影響に係る実態調査の推進

 

2 試験研究及び技術開発の推進

 

3 環境リスク評価、環境リスク管理及び情報提供の推進

 

4 国際的なネットワーク強化のための努力

 

 また、「SPEED98」には、内分泌攪乱作用を有すると疑われる化学物質がリストアップされました。このリストについては「内分泌攪乱作用を有すると疑われるもの」ということでしたが、「内分泌攪乱作用を有するもの」とうけとめられたこともふくめ、ひろく注目されました。

 

1998年6月、環境庁は「内分泌攪乱化学物質問題検討会」を設置し、「SPEED98」にもとづく取組みをすすめ、この問題での国際シンポジウムを京都(1998年12月)、神戸(1999年12月)などで相次ぎ開催し、情報提供を行いました。

 

 この問題については、経済協力開発機構(OECD)、米国環境保護庁(EPA)、欧州委員会(EU)などでも調査研究がすすめられ、国際シンポジウムなどで情報共有が行われていきました。

 

 環境庁は「SPEED98」にもとづく取組み内容をふまえ、また、科学的知見が集約されてきたことをふまえ、2000年11月、「SPEED98」の追加・修正版を公表しました。その進捗状況は「内分泌攪乱化学物質問題検討会」に集約・検討されていくことになりました。

 

 

 

2 「ExTEND2005」から「EXTEND2016」へ

 

「SPEED98」にもとづく取組みの推進、国際的な調査研究と新たな知見の広がりのなかで、2003年5月、内分泌攪乱化学物質について「内分泌系に影響を及ぼすことにより、生体に障害や有害な影響を引き起こす外因性の化学物質」とする政府見解が取りまとめられました。

 

 これをうけて、「SPEED98改訂ワーキンググループ」が設置されました。「ワーキンググループ」では、これまでの取組みをまとめるとともに、今後の課題を抽出し、地方自治体の対応についてヒアリングをしながら、2005年3月、「化学物質の内分泌かく乱作用に関する環境省の今後の対応方針について(ExTEND2005)」を取りまとめることになりました。

 

 「ExTEND2005」の基本的な考え方と具体的方針は、「SPEED98」の基本的な考え方と具体的方針を発展させたもので、つぎのようなものでした。

 

 (基本的な考え方)

 

様々な生物種における内分泌系に関する基礎的な知見の収集や各種の内分泌攪乱作用のメカニズム等についての基礎的研究の指針が必要である。一方、天然のホルモン様物質による影響も視野に入れる必要がある。

 

内分泌攪乱のメカニズムを注意深く見るとともに、化学物質の影響を総合的にとらえる視点が重要である。また、種々の試験評価手法の確立が必要である。

 

総合的なリスク評価とリスク管理、リスクコミュニケーションが課題になる。

 

 (具体的方針)

 

1 野生生物の観察

 

2 環境中濃度の実態把握及び暴露の測定

 

3 基礎的研究の推進

 

4 影響評価

 

5 リスク評価

 

6 リスク管理

 

7 情報提供とリスクコミュニケーション

 

 このような考え方と具体的方針にもとづく取組みがすすめられたのをうけて、2010年には「EXTED2010」、さらに2016年には「EXTEND2016」がとりまとめられ、取組みが継続されています。

 

 「EXTEND2016」の基本的考え方と具体的方針は、つぎのようなものです。

 

 (基本的な考え方)

 

  「EXTEND2010」の枠組みを整理統合し所要の改善を加えた上で、向こう5年間程度を見据えた新たなプログラムを構築し、内分泌かく乱作用に関する検討を着実に進めていくこととし、化学物質の内分泌かく乱作用に伴う環境リスクを適切に評価し必要に応じ管理していくことを目標とする。諸外国の動向を踏まえたリスク管理、子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)等との連携も視野に入れる。

 

 (具体的方針)

 

  1 作用・影響の評価及び試験法の開発

 

  2 環境中濃度の実態把握及びばく露の評価

 

  3 リスク評価及びリスク管理

 

  4 化学物質の内分泌かく乱作用に関する知見収集

 

  5 国際協力及び情報発信の推進

 

 

 

 これらの一連の政府の対応についてあらためてふりかえり論点整理をすることも、こんごの調査研究の課題のひとつといえるでしょう。

 

 

 

三 調査研究の進展と課題

 

 

 

1 未解明な問題が数多く残されている

 

 環境ホルモンの問題はすでに20年以上の歴史をもつに至っています。この問題が社会問題した当初は関連出版物の発行、メディアの相次ぐ報道によって多くの関心が寄せられたものの、公害病患者のように原因物質や発生源が特定できる被害者が出ているともいえない中で、次第に潮が引くように社会全体の関心が弱まってしまったようです。

 

専門家の調査研究は地道な努力が積み重ねられてきましたが、それは野生生物の中での影響調査が主となり、そのための試験方法の開発などが中心でした。メダカを用いた試験によりノニルフェノール、オクチルフェノール、ビスフェノールA,DDTについて悪影響が認められるという結果が公表されるなど、成果も出てきたといえますが、結果としては低用量影響、複合影響、世代をまたがる影響など未解明の問題が多く、「環境ホルモン」問題全体を解明しきれないでいるのが現状のようです。

 

このようななかで「環境ホルモン」問題はあいまいな情報にふりまわされた「思い過ごし」だったのではないかという批判的な見解も否定できないままでいるようです。

 

 

 

2 予防原則をふまえたアプローチを

 

 しかし、まだまだ未解明の問題があるとはいえ、事柄の重要性から長期にわたって調査研究を継続させることは必要なことでしょう。その場合、予防原則の立場に立って調査研究や必要な規制を行うことが重要だとされることが少なくありません。最初に紹介した「化学物質リスク研究会」報告書も、予防原則からの対処を求めるものになっていました。

 

 予防原則の考え方は、1980年代から主張されるようになり、1992年の国連環境開発会議が採択した「リオ宣言」の第15原則において「環境を保護するため、予防的取組方法は、各国より、その能力に応じて広く適用されなければならない。深刻な、あるいは不可逆的な被害のおそれのある場合には、完全な科学的確実性の欠如が、環境悪化を防止するための費用対効果の大きな対策を延期する理由として使われてはならない」と明記されたことで広く認められるようになったものです。生物多様性条約や気候変動枠組条約などでもこの考え方を拠り所にしているとされています。「環境ホルモン」問題に限らず、化学物質による環境汚染や人体への影響などを論ずる場合においても重大な有害性や不可逆的な有害性を及ぼす可能性が認められる場合、ある程度の不確実性要素があり、科学的な因果関係が十分に解明されていなくても規制したほうがよいという判断も、この予防原則に拠り所を求めるものです。

 

 少し古い話になりますが、1970年代において食品公害や食品添加物の有害性を論ずるにあたって「疑わしきは使用せず」という主張をしていたことがありますが、予防原則の考え方を先取りしたものであったといえます。

 

 

 

3 「リスク評価」手法からのアプローチ

 

 とはいえ、予防原則をあらゆる場面で過剰に主張するというのは合理的でないと評価される場合もありうるわけで、最近はそこに「リスク」という概念や「リスク評価」という手法が持ちこまれるようになりました。

 

 「リスク」という概念も比較的新しいもので、1980年代くらいから広く使われるようになったものです。一般的には、リスクとは「被害がどのくらい重大であるかということと、それはどの程度の確率で起こるのかという、二つの要素の積であらわされるもの」と定義されています。数式的にいえば、

 

 (リスク)=(被害の大きさ)×(発生の確率)

 

ということになります。

 

 この「リスク」という概念にもとづきさまざまな社会事象を評価・対処する事例がみられるようになりました。たとえば、「食の安全」という分野でも「リスク分析」という手法が国際的に広まり、日本でもBSE問題を機に整備された食品安全行政の根幹をなすものになっています。すなわち、新設された食品安全委員会は「リスク評価」にあたり、農林省、厚生労働省は「リスク管理」にあたり、関係者全員がリスク情報を共有し対話を深める「リスクコミュニケーション」をすすめるというものです。

 

 当然、このような考え方を「環境ホルモン」問題をふくめ、化学物質による環境汚染や人体への影響という領域でも活かしてはどうかという事になるのです。

 

 であったとしても、とてもむつかしいことですが、「リスク認知」については個人差を認めなければならないし、「リスク評価」をだれがどのような基準で行うのか、そのうえで「リスク選択」をだれが行うのかという問題が残るのです。

 

 いずれにしても、「環境ホルモン」問題は衝撃的な問題であっただけに、なんとなくあいまいなままになっているのは気になっていたことから、あらためて情報整理をしてみたところですが、この問題の専門家がより明確なメッセージを社会にむかって発信してもらうことを期待したいと思っています。

 

 

 

<注>

 

1 『奪われし未来』とその反響については、1997年11月のレイチェル・カーソン京都セミナーでの報告をもとにした「『沈黙の春』から『奪われし未来』へ」を執筆した(『「沈黙の春」の50年』に収録している)。当時の問題意識を確認していただくことができる。

 

2 「化学物質リスク研究会報告書」は京都循環経済研究所のホームページの「資料箱」でみていただくことができる。

 

3 「環境ホルモン」問題についての政府の対応については、環境省のホームページで追うことができる。環境省のホームページで「政策分野一覧」⇒「保健・化学物質対策」⇒「「科学的知見の充実及び環境リスク評価の推進」と進むと「化学物質の内分泌かく乱作用について」の項目が出てくる。ここでとりあえず「EXTEND2016」をダウンロードすると概要がつかめる。また、「化学物質の内分泌かく乱作用に関する公開セミナー」の記録も参考になる。

 

4 「予防原則」については大竹千代子・東賢一著『予防原則』(2005年、合同出版)が詳細に情報提供している。

 

5 「リスク評価」や「リスクコミュニケーション」については吉川肇子著『リスクとつきあう』(2000年、有斐閣)で学んだが、いまは入手困難。とりあえずは、岩波書店から出版されている『リスク学入門』第4巻に「リスクコミュニケーション」の論文が収録されているのを参照していただきたい。

 

6 「リスク選択」については、気候変動に関わる領域の論稿だが、江守正多著『異常気象と人類の選択』が参考になった。