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ブックガイド プラスチック問題を学ぶ 

 

プラスチック問題は「プラスチック海洋汚染」が注目されるなかで、いまや地球環境問題のなかで気候変動問題とならぶトップメニューになっています。

 

2018年6月のカナダで開催されたG7は「海洋プラスチック憲章」を採択しています。2019年、日本で開催されたG20でもプラスチック問題が重要テーマとして取り上げられました。また、日本政府はG20を前に「プラスチック資源循環戦略」をとりまとめ、レジ袋有料化義務化の方向を示し、話題になりました。

 

 このような動きが伝えられるなかで、本紙でも何度かにわたり情報提供をしてきたところですが、新しい年をむかえ、この問題については、京都循環経済研究所としての学習課題、調査研究課題のなかでとくに重視したいテーマと認識しています。

 

 プラスチック問題は、毎日のくらしに深くかかわる問題であり、地域のごみ問題の焦点になっている問題です。また地球規模の環境問題の重要課題としても位置付けられる問題です。

 

 したがって、学習や調査研究をすすめるうえで、総合的視野をもちながら個別問題を深めるような取り上げ方が必要になると思われます。

 

 というわけで、最初にこの問題を考えるテキストとして、枝廣淳子『プラスチック汚染とは何か』(岩波ブックレット 2019年刊)をとりあげ、この問題の全体像をつかむようにしたいと思います。著者は、これまでからレスター・ブラウンの著書の翻訳にあたるなど、諸外国の環境問題に通じており、さまざまなテーマでの発言を続けています。プラスチック問題については、前に記した「プラスチック資源循環戦略」の策定のための委員に加わっており、このブックレットでもその経験をふまえ、幅広い視野からの解説を行っています。

 

 このブックレットの構成は以下の通りです。ぜひブックレットを手にし、ざっと目を通していただきたいと思います。そこで気になったこと、感じたことについて別の資料も含めて深めていただいたらと思うのです。

 

 

 

  1. プラスチックとはどんな物質なのか 増える消費と廃棄

 

1-1 プラスチックの歴史と性質

 

1-2 種類と用途

 

1-3 増え続ける生産と消費

 

1-4 マイクロプラスチック

 

1-5 リサイクル・廃棄の現状

 

  1. 海洋プラスチック汚染 その現状と影響

 

2-1 海洋プラスチックごみの量と広がり

 

2-2 発生源

 

2-3 海洋プラスチック汚染の生態系への影響

 

2-4 人間の健康への影響

 

2-5 経済への影響

 

  1. プラスチック汚染を減らすために 世界の取り組みの動向

 

3-1 海洋プラ汚染への国際的な取り組み

 

3-2 EUの取り組み

 

3-3 各国政府の取り組み

 

3-4 海洋からプラごみを除去する取り組み

 

  1. プラスチックごみ問題を考える視点と枠組み

 

4-1 基本的枠組み

 

4-2 実際の取り組み例

 

4-3 マイクロプラスチックへの取り組み

 

  1. 日本の課題

 

5-1 中国の廃プラスチック輸入禁止の衝撃

 

5-2 政府は何に取り組むべきか

 

5-3 企業・産業界はどう取り組むべきか

 

5-4 NGO・市民の取り組み

 

おわりに

 

 

 

 私がこのブックレットを一読し、興味をもった点をあげてみます。

 

1 「サーキュラー・エコノミー」という視点からのアプローチ

 

「プラスチック問題は、「環境問題」であると同時に「資源問題」でもある。欧州では「サーキュラー・エコノミー」(循環経済)に転換していくうえでの「産業政策」として取り組まれている。」との指摘は、「廃棄制約」という視点とともに、京都循環経済研究所の基本的な立場と共通するものであり、とても注目したいと思いました。

 

 2 プラスチックのリサイクル・廃棄の現状について

 

 レジ袋、ペットボトル、ストローを例にあげながら、プラスチックのリサイクル・廃棄の現状について論述している部分は、容器包装リサイクル法をもとにしたごみ行政の在り方に関わって、おおいに考えなければならない問題だと思います。「拡大生産者責任」についても何度か指摘されていますが、なぜこの考え方が日本では定着しないのかということもふくめて検討していきたいと思います。

 

 3 マイクロプラスチックの影響

 

 海洋汚染の原因となっているマイクロプラスチックの影響、とくに人間の健康への影響については、いまなお知見が限られているのでしょうが、とても気になることです。プラスチックの可塑剤や化学添加物が「環境ホルモン」のはたらきをもたないかどうか、追いかけたいところです。「環境ホルモン」の研究でもビスフェノールAやフタル酸エステルなどについては限りなく「グレー」の評価がされており、マークしなければいけないと思うのです。

 

 4 「バイオプラスチック」について

 

 これまでのプラスチックに代わる「バイオプラスチック」については、「バイオ」といえば問題がないかのように、研究開発の重点課題とされているが、ほんとうに大丈夫なのかという感想を持ちます。このブックレットではこのあたりについて「一口に「バイオプラスチック」と言っても、いろいろな種類があり、それぞれ利点と課題がある」として注意を呼びかけていますが、大事に扱いたいところです。

 

 5 市民としての対応について

 

 プラスチックは便利なものであり、なくてはならないものとされてきましたが、問題に気がついた市民として何をしたらよいのか、これからの具体的な行動指針を見つけ出すための議論が必要なのだと思います。「プラスチックごみが環境中に散逸しないよう、一人ひとりが使用を減らし、代替物に置き換え、すでに環境中に出てしまったプラスチックごみを回収する取組みをすすめなくてはならない」との指摘はとても重要なものと思います。

 

これから、以上の諸点を手がかりにして、プラスチック問題についての学習と調査研究をすすめたいと思っています。

 

 

 

なお、このブックレットとあわせて、以下の書籍等を読み進められることをおすすめします。

 

 ●高田秀重『プラスチックの現実と未来へのアイデア』(東京書籍)

 

●チャールズ・モア『プラスチックスープの海』(NHK出版)

 

●シャンタル・プラモンドン『プラスチックフリー生活』(NHK出版)

 

●中嶋亮太『海洋プラスチック汚染』(岩波科学ライブラリー)