レスター・R・ブラウン著
『大転換 新しいエネルギー経済のかたち』
著者のレスター・R・ブラウンは、長年にわたり『プランB』などの著書を通じて、生態系の許容する限界を越えた成長をし続けようとする経済から、生態系と調和する経済(エコ・エコノミー)への転換を呼びかけ続けてきたことで広く知られています。本著は、気候変動からまさに気候危機へと事態が深刻化するなかで、これまでの著者の主張をより明確にし、化石燃料から太陽・風力エネルギーに転換することの必要性を強いメッセージとして伝えようとするものです。
著者は「序文」の冒頭で、この著書の目的をつぎのように述べています。
エネルギー転換は目新しいことではない。木材から石炭への移行は、数百年前に始まった。世界で最初の油井が掘削されたのは150年以上前のことだ。私たちは今、新たなエネルギー転換の出発点にいる。主に石炭や石油で動く経済から、太陽や風を動力源とする経済へと私たちを導く転換だ。まだ始まったばかりのこの重要な移行によって、50年分の変化がぎゅっと圧縮された形で次の10年間に起こるだろう。本書の目的は、この大転換がどのように展開しはじめているかを描くことである。
著者の意図、論理は明確です。本書の構成も実に明快です。「目次」をひろうと、
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方向転換
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石油の興隆と衰退
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石炭火力発電所を閉鎖する
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衰退する原子力
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ソーラー革命
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風力の時代
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地熱を開発する
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水力発電――過去と未来
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加速する転換
となっています。「新しいエネルギー経済のかたち」が実にはっきりと示されているといえます。
本書が出版されたのは2015年4月、枝廣淳子の手による日本語訳が出版されたのが同じ2015年7月です。そして、同じ2015年12月、「パリ協定」が採択されるのです。
「パリ協定」はかつてない気候危機にたちむかう世界共通の羅針盤というべきもので、地球の平均気温の上昇を2℃未満、できれば1.5℃で抑えるために、温室効果ガスの排出を実質ゼロにしようというものです。この考え方の上に出てくるエネルギー選択はまさに再生可能エネルギー100(RE100)というものです。これは、本書が示すエネルギー転換の方向とまったく共通しています。
しかし、現実のエネルギー転換の動きは、個別企業や自治体など、現場では急速にすすみつつあるというものの、「パリ協定」から離脱したアメリカのトランプ政権は論外として、各国政府の動きはまだ求められているレベルには到達していません。今回、マドリードで開催されたCOP25についても、グレタ・トウンベリさんたちの活躍はあったものの、問題は先送りになってしまったようです。
日本政府のCOP25対応などの環境政策、エネルギー経済政策についても国際的には批判の声が集まっています。
このようななかで、本書に学び、気候危機の進行する現実を見つめ、エネルギー経済の大転換をすすめる覚悟をもつことがもとめられているということができます。大事なことは、これが新しい苦難のはじまりではなく、胸躍る未来のはじまりだということです。
(岩波書店刊 2015年7月 1900円プラス税)