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ブックガイド 吉永明弘・福永真弓編著『未来の環境倫理学』

 

環境倫理学の本を久しぶりに手にしました。というのは、本書のタイトルに興味を持ったからです。「未来の環境倫理学」とはいったいどのような問題を、どのように論じているのだろうか、と思ったのです。

 

一読して、検討の対象になっている原著書や論文等を読んでいないためにわからないこと、誤読しているかもしれないこと、十分に理解できていないことなども残っていますが、以下、とりあえずの感想です。

 

まず、全体の構成がよく配慮されたものになっていることはとても好感が持てるものです。すなわち、「はじめに」と「序章」でこの本を通じて何を伝えようとしているのかという編著者の基本的な立場が簡潔にまとめられていること、さらに第Ⅰ部、第Ⅱ部それぞれにイントロダクションがつけられており、著書全体の中での個々の論文の位置づけがしやすいこと、さらに、「終章」の補論、「おわりに」の、この本が刊行された経緯の説明、巻末の丁寧なキーワード解説が理解を助けてくれることです。

 

編著者の基本的な立場を「序章」からひろってみます。「本書は、21世紀の環境をめぐる問題状況に対して、「環境倫理学」の立場から応答を試みるものである」としたうえで、地球環境問題、自然保護をめぐる状況の変化、とりわけ福島第一原発事故の経験をふまえて、環境倫理学の役割が問われているのだという認識のもとに、以下、本書の三つの課題が示されています。

 

1 1970年代以降のアメリカの環境倫理学と、1990年代以降の日本の環境倫理学をふまえつつも、21世紀という新しい時代にそくした環境倫理学の議論をおこなうこと。

 

2 哲学・倫理学の立場から具体的な環境問題に対して政策に影響を与える実践的な規範を提示すること。

 

3 欧米の環境倫理学との接続を意識しながら議論を進めること。欧米の議論のなかには、日本であまり注目されてこなかった議論がたくさん残っている。

 

本書には、このような課題意識のうえに、第Ⅰ部には「災後の環境倫理学」として「リスク社会における環境倫理学」「福島第一原発事故に対する欧米の環境倫理学者の応答」「放射性廃棄物と世代間倫理」「環境正義がつなぐ未来」の4つの論文が配置されています。また、第Ⅱ部は「未来の環境倫理学」として「多様性の環境倫理に向けた環境倫理学の理解」「ハンス・ヨナスの自然哲学と未来倫理」「気候工学とカタストロフィ」「「人新世」時代の環境倫理学」の4つの論文が配置されています。

 

「21世紀を「環境の世紀」へ」といいながら、実際には環境問題はさらに深刻な問題になっています。地球環境の問題についていえば、まさに気候変動という段階からいまや気候危機というべき段階だといわれる状況にあります。また、福島第一原発事故は「日本における最大規模の環境災害」であり、この解決のためにどれだけの時間とどれだけの費用がかかるのか、見通しをもつことができない状況です。このようななかで、これまで環境倫理学の検討対象にしてこなかった気候危機や原発といかに向き合うのかという問題への応答がもとめられるわけです。本書が、これらの問題に意欲的に取組んでいることは注目したいことです。

 

とりわけ、環境倫理学の論点のひとつとして「世代間倫理」の問題が重要な論点にならざるをえないなかで、この点について深掘りしようとしていることも大事な点であり、本書の署名が「未来の環境倫理学」とされた理由も理解できるように思います。

 

編著者もふくめ執筆者は6名ですが、全員が若手の研究者であり、これから環境倫理学の未来をきりひらいていく役割を担っていくことを期待したいものです。

 

なお、本書と同時期に編著者の吉永明弘著『ブックガイド 環境倫理』が刊行されています。あわせて手にしたいものです。

 

(勁草書房 2018年3月 2500円+税)