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ブックガイド 感染症を学ぶ

 

新型コロナウイルスの感染拡大対策にともなう各種行事の中止、いっせい休校など、社会生活に大きな影響がではじめています。経済的にも影響は大きく、各種の経済統計はびっくりするような数字を示しています。この先どうなるのか、一日も早い終息を願いたいものです。

 

このようななかで感染症について正しい知識をもつために役立ちそうな書籍を紹介します。

 

まず、感染症の歴史から学ぶということです。人類の歴史をふりかえるとき、感染症とのたたかいの歴史でもあったとよくいわれています。また感染症が歴史を動かしたともいわれます。

 

Gakken Mook「科学で見る!世界史」(学習研究社 2008)の第3章「世界史の影の主役・病原体」では、つぎのような項目について解説されています。

 

 ローマ帝国を衰退させた病 マラリア/近世ヨーロッパの扉を開く鉄槌 ペスト

 

 新大陸の真の征服者 天然痘/宗教改革を盛り上げた性の病 梅毒

 

 産業革命の招いた闇 結核/第一次大戦を終結させたスペイン風邪

 

 現代の脅威 新型インフルエンザH5N1型

 

感染症の歴史はこれだけに限ったものではありませんが、とても興味深い指摘です。

 

感染症の歴史に関わる基本的な情報を把握できる文献としては、岡田晴恵『人類vs感染症』(岩波ジュニア新書 2004)、石弘之『感染症の世界史』(角川ソフィア文庫 2018)などが手軽に読めるものです。村上陽一郎『ペスト大流行』(岩波新書 1983)はペストの大流行がヨーロッパ中世の崩壊につながったものとする、いまでは古典といえる文献です。

 

感染症の世界的な流行(パンデミック)については、アルフレッド・W・クロスピー『史上最悪のインフルエンザ』(みすず書房 2004)、速水融『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ』(藤原書房 2006)などがあげられます。いずれもなかなかの大著ですが、パンデミックとはどういうものかを知る文献として、いちどご覧いただくとよいと思います。

 

私たちが直面している21世紀の感染症の脅威に関わっては、相川正道・永倉貢一『現代の感染症』(岩波新書 1997)、山本太郎『新型インフルエンザ』(岩波新書2006)、岡田晴恵『強毒型インフルエンザ』(PHP新書 2011)などが便利です。外岡立人『新型インフル』(岩波ブックレット 2013)もコンパクトに情報を整理しています。これらを学ぶことによって、いわゆる「新型インフルエンザ」への対策の考え方を理解することができるでしょう。

 

21世紀になってからの短い期間でしたが、私たちは「新型インフルエンザ」ということについて実際にいくつか経験を重ねてきました。その際、基本的に想定されていたのはH5N1型鳥インフルがヒトへ感染し、大流行した場合のことでした。ところが、2009年に実際に流行したのは豚インフルの変異したものでした。このとき、WHOも含めてパンデミック体制をとったのですが、結果的には軽症ですんだため、その反動として警戒が緩んでしまったきらいがあります。しかしながら、人畜共通感染症の心配がなくなったわけではなく、H7N9型鳥インフルのヒトへの感染事例も報じられています。

 

他方で、2003年のSARS(重症急性呼吸器感染症)や2012年のMERS(中東呼吸器症候群)系統の新型コロナウイルスの流行の予兆などから、これまでのパンデミック対策の経験をふまえた対策強化を準備すべきであったわけです。今回の新型コロナウイルスの感染拡大のなかで、準備してきた対策がこれでよかったのかということが問われているものといえます。

 

直面している新型コロナウイルスの感染拡大防止もふくめ、感染症とのたたかいにはこれで終わりということはありません。感染症について正しい知識を持ち、問題に対処したいものです。