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私の「現代環境論」<2>

 

私の「現代環境論」<2>  原  強

 

1 20世紀文明と環境問題

 

2 公害から地球環境問題へ 

 

3 気候変動(地球温暖化)問題

 

気候変動(地球温暖化)問題は地球環境問題の最大のテーマです。

 

気候変動(地球温暖化)問題を考えるポイントは、その原因とメカニズム、その影響、その対策、解決のための国際交渉、などです。それぞれについてさまざまな角度からの検討が必要ですが、ここでは、気候変動問題の科学、気候変動問題と政治ということで、まとめておきます。

 

<気候変動問題の科学>

 

気候変動の科学ということでは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の活動についてのべなければなりません。IPCCは、環境と開発に関する世界委員会が報告書(1987)をまとめ、Sustainable Development概念の提唱し、気候変動対策が国際的な課題にうかびあがるなかで設立されました。IPCCは世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により設立されたもので、各国政府から推薦された科学者があつまり、気候変動に関する科学的・技術的・社会経済的な評価を行い、得られた知見を政策決定者をはじめ、広く一般に利用してもらうことを役割としています。

 

IPCCは、この間、5回にわたり報告書を公表しています。それぞれが重要な政策決定につながってきたものです。

 

 第1次報告書(1990)

 

 第2次報告書(1995)

 

 第3次報告書(2001)

 

 第4次報告書(2007)

 

 第5次報告書(2014)

 

最新の報告書である第5次報告書では、

 

・人の排出する温室効果ガスが、地球温暖化の主因である可能性が極めて高い

 

・長期にわたり気候が変化し、社会と生態系に厳しく、取り戻せない悪影響が及ぶ可能性が増す

 

・21世紀末の平均気温は20世紀末より最大4.8℃高く、海面上昇は20㎝上昇する

 

・熱波や干ばつ、洪水の頻度が増し、食糧や水の不足、貧困、紛争を招く恐れがある

 

・現世代が努力しないと、「重荷を背負わされる」のは将来世代だ

 

などとのべています。

 

このあとさらに、気候変動による影響をおさえるために、気温上昇を1.5℃でとめなければならないということに焦点をあてて、「1.5℃特別レポート」(2018)を公表しています。

 

さらに、2019年8月の「土地関係特別報告書」や2019年9月の「海洋氷雪圏特別報告書」などを発表しています。2019年5月には第49回総会を国立京都国際会館で開催し、パリ協定の実施に不可欠な各国の温室効果ガス排出量の算定方法に関する「2019年方法論報告書」(いわゆる「IPCC京都ガイドライン」を採択しています。

 

このようなIPCCの報告書等を受けて、昨今の異常気象と気候変動問題の関わりについても、科学的知見がより豊かになり、

 

・異常気象の発生確率を気候変動(地球温暖化)が高めている

 

・CO2の累積排出量に比例して世界平均気温が上昇している

 

との認識が広まっています。

 

<気候変動問題と政治>

 

気候変動問題が国際政治の場でとりあげられるようになったのは1980年代後半からです。とくに、国連環境開発会議(地球サミット)(1992)では議論の焦点になり、その議論は気候変動枠組条約につながったといえます。気候変動枠組条約は1994年に発効し、気候変動枠組条約締約国会議(COP)がスタートします(1995)。

 

第3回締約国会議(COP3)は1997年12月に京都で開催され、「京都議定書」が採択されます。しかし、当時の最大のCO2排出国であるアメリカが離脱するなかで、その発効は2005年までずれ込みました。それでも国際的に共同で目標を分かち合いCO2削減に向けた取組みが始まったことはとても重要なことでした。

 

2015年12月、COP21はパリで開催され、気候変動対策が緊急の課題になっていることを確認し、「パリ協定」を採択しました。

 

「パリ協定」は、

 

・世界全体の目標として、気温上昇を2℃より低く抑える、さらに1.5℃未満にむけて努力する、

 

・今世紀後半に温室効果ガスの排出と吸収を均衡させる

 

・各国の削減目標の作成・報告、その達成の国内対策を義務化する

 

・途上国への支援

 

・被害の軽減策を削減策と並ぶ柱にする

 

など、これまで以上に踏み込んだものになっています。しかし、これらの目標を達成したとしても気候変動が止められるかどうかという問題を抱えているのです。

 

このようななかで、いまや「気候危機」の時代にはいったとの認識も広がっています。

 

相次ぐ巨大台風、集中豪雨にともなう自然災害、記録的な猛暑や暖冬など、日本の現実を見ても、確実に気候変動は進行しているといわねばなりません。

 

残された時間は限られています。気候変動を抑えるために、脱炭素社会にむかって社会・経済全体が大きく転換することが求められています。

 

 2020年2月11日、KYOTO地球環境殿堂表彰式に出席したIPCC議長のホーセン・リー氏は謝辞・講演を通じて、以下のように述べました。「気候危機」に立ち向かう覚悟が示されたものだといえます。

 

 「現在までに地球の温度はすでに1度ほど上昇している。これにより、海面上昇、暴風など、気候変動による悪影響が目立っている。このようななかで「パリ協定」は1.5℃の上昇の範囲で抑えることを目指しているが、現在、各国が準備している削減目標では目標達成ができない。さらにすべての国・セクターがさまざまな努力を重ねることが求められている。気候変動の影響を「緩和」するための取組みも重要になっている。とりわけ、もっとも気候変動のリスクにさらされている貧困国の人々への国際的な支援が求められている。気候変動に対する取組みは、新しいテクノロジーの開発、投資先の変更、さまざまなイノベーションなど、新しいチャンスにもなる。IPCCでは、現在、これらの取組みを促すために「第6次評価報告書」を2021年から2022年にむけて準備している。新たな選択肢を示すことが重要である。脱炭素化への重要な10年にむかって取組みを開始しよう。」(筆者の責任で要約したものです) 

 

4 廃棄物

 

「ごみをみれば暮らしがわかる」といわれるように、廃棄物の排出実態は暮らしや経済の現実をリアルに反映します。

 

1950年代後半からはじまった高度経済成長のもとで、わが国の暮らしも経済も大きく様変わりしました。洗濯機、テレビ、冷蔵庫など、電化製品が暮らしの中に入ってきました。マイカーの普及にともない交通事情も変わりました。スーパーの進出により、対面形式の販売からセルフ方式の販売が一般化し、容器包装事情もすっかり変わりました。

 

このようななかで大量消費社会すなわち大量廃棄社会が形成されていったのです。ごみは増え、その質も変わっていきました。

 

高度経済成長のピーク時、1970年代の初め、東京をはじめ各地で増え続けるごみを処理できない事態に直面したといわれています。「分ければ資源、まぜればごみ」といわれはじめたのもこの時です。増加するごみを処理するためのごみ処理施設の新設が必要になった地域では、住民から反対の声が出されるなど、社会問題になった事例も生まれました。

 

1980年代後半から1990年代はじめまでの、いわゆる「バブル」期にも、ごみが急増し、その処理をめぐってどうするかがあらためて問題になりました。このなかからリサイクルをよびかける市民の活動が広がり、リサイクル事業者の活動も目立ち始めるのです。それは1992年の地球環境開発会議(地球サミット)を前にした環境問題のブームを支えるものでした。

 

(「ごみ問題」の構造)

 

 ここであらためて「ごみ問題」とは何かを考えてみます。「ごみ問題」とは、

 

1 ごみの量が増加し、ごみ処理施設(埋立施設、焼却施設)が限界に達する

 

2 ごみの質が変化、すなわち自然にかえらないプラスチックごみ等の増加等により、それらの適正処理が困難になり、環境汚染問題が発生する

 

という構造を持っていました。

 

このように考えると、「ごみ問題」の解決の方向として 

 

1 ごみ減量・リサイクル(再資源化)

 

2 ごみの適正処理

 

ということが必要になるわけです。

 

しかし、現実にまず問われたことは、リサイクルで「ごみ問題」が解決するのかということでした。市民が始めたリサイクル運動も理念や善意だけではどうしようもない事態に直面することになりました。牛乳パックのリサイクル、空き瓶回収など、始めたものの行き詰まってしまった事例は数多くあげられます。

 

少しリサイクルということについて踏み込んで考えてみますと、次のようなリサイクルの条件がそろわないとうまくいかないということがわかってくるのです。

 

1 対象になるものが大量にあること

 

2 対象になるものを集めることができること

 

3 リサイクル技術があるのか

 

4 再生品が商品になりうること

 

5 経済的に成り立つこと

 

結局、リサイクルができるものは限られており、「ごみ問題」の解決のためにはリサイクルからさかのぼってごみの発生抑制をはかるがどうしても必要だということがはっきりすることになりました。

 

このようななかで、循環型社会形成推進基本法が制定され(2000)、循環型社会形成を目標にした取組みとして「3R」(Reduce/Reuse/Recycle)という目標が示されるようになるのです。さらに、容器包装リサイクル法、家電リサイクル法、建設資材リサイクル法、食品リサイクル法などが制定され、循環型社会をめざす施策が動きだすのです。

 

その取組みがいかなるものであったのか、何が実現できたのか、あらためて考え、あらたな目標づくりが必要になっているといわねばなりません。

 

(廃棄物行政の課題)

 

日本の廃棄物行政の根拠法は廃棄物処理法です。廃棄物処理の現場の実務に関わる法律ですので、具体的な処理基準を示さなければならないため、条文も多く、何度も改正されています。また、それにともなう規則類も細かなルールを取り決めています。

 

この法律では、廃棄物を一般廃棄物と産業廃棄物に区分しています。そして、産業廃棄物を除く一般廃棄物についてその処理責任は市町村にあると規定されています。ですから、ごみ問題は身近な市町村の行政課題になるのです。そこでは、増え続ける廃棄物をめぐって、いかに「ごみ減量」対策をすすめるのか、ということが中心的な課題になっています。

 

市町村の「ごみ減量」対策としては、まず「資源ごみ」の分別・リサイクルの取組みが推進されてきました。各種リサイクル関連法の整備もこの取組みを後押ししてきました。続いて「有害ごみ」の適正処理のための分別もよびかけられてきました。

 

しかし、「ごみ減量」のための分別も、他方では収集運搬体制やコストに関わる問題になることもあり、実際には試行錯誤がくりかえされてきたともいえます。

 

このなかで「ごみ減量」対策のひとつとして「ごみ有料化」の問題が多くの市町村で浮かび上がりました。「ごみ有料化」については住民の中でも賛否が分かれる問題であり、どのように住民合意を形成するのかが問われた問題でした。この取組みを通じて廃棄物行政への市民参加の重要性も強調されてきたのです。

 

(産業廃棄物)

 

産業廃棄物は、事業者が排出する廃棄物のなかで、汚泥、廃油など、法が定めた20種類のものをいいます。産業廃棄物は量も多く、中には環境汚染につながるものもあり、適正な収集・処理が行われなければなりません。したがって、その処理責任は排出する事業者が負うことになっており、その処理を他に委託する場合には、都道府県等の許可を受けた廃棄物処理事業者と契約を結び、排出時には廃棄物の種類・数量等を記載した産業廃棄物管理票(マニフェスト)を交付し、それらの廃棄物が適正に処理されたかどうかを確認することが求められることになっています。しかし、ときどきマスコミで報じられるような社会問題となる不法投棄問題が起きていることも現実です。

 

(当面している「ごみ問題」の政策的な課題)

 

「ごみ問題」は実に幅の広い問題であり、分野ごとに、テーマごとにそれぞれ論じなければならないと思います。当面している政策的な課題として、以下の項目をあげておきます。これらについてはあらためて論じたいと思います。

 

1 「食品ロス」削減

 

2 プラスチックごみ対策 レジ袋、PETボトル

 

3 水銀含有廃棄物対策 蛍光管、乾電池、体温計、血圧計