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私の「現代環境論」<3>

 

私の「現代環境論」<3>  原  強

 

1 20世紀文明と環境問題

 

2 公害から地球環境問題へ 

 

3 気候変動(地球温暖化)問題

 

4 廃棄物         

 

5 化学物質による環境汚染

 

20世紀文明は化学物質文明であったということができます。

 

20世紀、それもその後半、化学物質は大量に生産・消費・廃棄されてきました。それらはくらしに「便利さ」「快適さ」をもたらした反面、人間の健康障害、環境汚染を引き起こしてきました。私たちは、その「負の遺産」を背負っているといわねばなりません。

 

化学物質の毒性としては、一般毒性(急性・慢性)に加えて発がん性、変異毒性、生殖毒性など、特殊毒性といわれるものが注目されてきました。とくに重要なことは、これらの毒性の中にはごく微量でも回復不能な障害(とくに次世代への影響)を及ぼすおそれがあるとされることです。

 

(ダイオキシン)

 

有害な化学物質のなかでもっとも代表的なものがダイオキシンです。私たちはベトナム戦争時の「枯葉剤」大量散布による影響、とくに妊婦(胎児)への影響を知るなかで、ダイオキシンの有害性を認識しました。

 

日本で起きた問題としては、カネミ油症事件(1968)を通じてダイオキシン(PCB)の有害性をあらためて知ることになりました。この事件は、米ぬか油の製造過程で混入したダイオキシン(PCB)による食品公害事件ですが、世代をこえた健康障害を引き起こし、いまなお影響が及んでいるものです。

 

また、ごみ焼却の際にダイオキシンが発生するということが報じられるなかで、国・自治体をあげて緊急対策が取られたことも忘れることができません。当時、報じられたところによれば、わが国ではダイオキシンはその9割が身の回りのごみや産業廃棄物の焼却時に発生しているといわれました。緊急対策として、全国の市町村で小規模の焼却施設の運転中止や焼却施設の改修・置換えがすすめられました。

 

わが国においてダイオキシンの健康への影響を考える場合、大気や土壌から取りこむ量は限られており、食品、それも魚介類から多くを取り込んでいるとの実態が報告されたことも多くの人に不安を与えました。

 

その後、ダイオキシンの発生量も、人体への摂取量も、改善が進んでいることが明らかにされていますが、ひきつづき継続的な調査・情報収集が必要な問題です。

 

(「環境ホルモン」問題)

 

「環境ホルモン」とは、外因性内分泌攪乱化学物質のことです。すなわち、人間が外部から取りこむもので、内分泌のはたらきを攪乱し、それを通じてさまざまな健康障害をもたらすものとされています。この問題は、『奪われし未来』(1996)でとりあげられてから、一時、たいへんな社会問題になりました。

 

世論が沸騰するなかで、環境庁は1998年に緊急に「SPEED98」をまとめました。環境庁は、このレポートで「環境ホルモン」として疑われる物質を67品目とりあげました。多くは農薬・殺虫剤でしたが、ビスフェノールAなどプラスチックの可塑剤などもとりあげられました。あくまで「環境ホルモン」として疑われる物質ということでしたが、環境庁がリストアップしたということで社会的反響はとても大きかったのです。

 

結局、「SPEED98」は改訂され、それ以来、今日に至るまで、長期にわたり息長く情報収集、調査研究がすすめられている問題です。この中では、「予防原則」とリスク評価の問題が重要な論点になっています。

 

(重金属による環境汚染)

 

重金属による環境汚染という点では鉛やカドミウムなどの問題もありましたが、ここでは水銀にまつわる問題をとりあげます。

 

水銀は古くから最近にいたるまで、朱色の顔料、消毒剤、農薬、虫歯充填剤、蛍光管、乾電池、体温計、血圧計など、さまざまな場で使用されてきました。最近の統計では、農薬などの使用は限られており、蛍光管に使うものが多かったようです。蛍光管に水銀を使用していることはいまでも認知度の低い情報ですが、大事な情報です。

 

国際的には小規模金採掘現場の水銀使用が問題にされています。

 

水銀といえば水俣病といわれるように、水俣病の経験はまさに水銀によって悲惨な健康障害がひきおこされたものでした。石牟礼道子『苦海浄土』などが告発した水俣病の実態は忘れてはならない歴史的事実です。そして、いまなお「水俣はおわっていない」との訴えに耳を傾ける必要があるでしょう。

 

この経験と教訓を踏まえて、UNEP(国連環境計画)の場において水銀規制をめぐる動きが進展し、その動きは「水銀に関する水俣条約」(2013)の採択につながりました。

 

「水銀に関する水俣条約」をふまえた国内対策の整備もすすめられました。わが国では、工業プロセスでの使用はみられなくなっていましたので、焦点は水銀使用製品の回収・適正処理ということになりました。一般廃棄物対策としては蛍光管・乾電池の回収・適正処理とともに、水銀体温計、水銀血圧計の回収が課題になりました。産業廃棄物対策についても「ガイドライン」が示され、取組みがすすめられました。

 

(新たなステージをむかえた化学物質汚染)

 

化学物質は暮らしや経済にとって数知れぬメリットがあったといえますが、他方では、多くの問題を引き起こしてきたことを忘れてはなりません。そして、いままた新しい問題に直面しているのです。

 

化学物質による環境汚染は、日本環境化学会編『地球をめぐる不都合な物質』(2019)などが報告しているように、新たなステージを迎えたといえるようです。

 

すなわち、国境を越えて地球規模で拡散される残留性有機汚染物質(POPs)の問題、マイクロプラスチック汚染やPM2.5の越境汚染など、問題がグローバル化していることを認識しなければなりません。

 

また、世代を超える化学物質汚染という視点も重要です。カネミ油症事件におけるダオキシン(PCB)の経験、「胎児性水俣病」の教訓などを語り継いでいくことと同時に、被害者の「2世・3世」の健康診断や救済制度の検討を急ぐ必要があるでしょう。

 

 

 

6 人口・食料

 

(「人口爆発」の時代)

 

20世紀の特徴のひとつが「人口爆発」の時代だということはよく知られたことです。

 

人類はそのあゆみとともに人口を増加させてきました。その歴史をふりかえると、瞬間的に激減したこともありますが、基本的に増えつづけてきたのです。人口の増加は、食糧・エネルギーの需要を増加させ、そのバランスが崩れるとき、その文明は亡びることにもなりました。文明の興亡を決める一つの要素が人口の増加ということでした。

 

しかし、長い歴史を見渡した時、人口が増え続けたといってもごく限られたものでした。

 

局面が大きく変わったのが産業革命でした。産業革命後、人口は急速に増えはじめ、それとともに食糧・エネルギー問題もあらたな段階を迎えました。この流れをうけた20世紀は、ポール・エーリック『人口爆発』が象徴するように、「人口爆発」の時代であったのです。

 

世界の人口の推移の推移をみると、20世紀のはじまりは16億人、1950年は25億人、

 

20世紀末は63億人、そして、いまや約76億人に達しています。

 

「世界の人口」というホームページがあります。どこまで現実を表現しているのか、よくわからない点もありますが、リアルタイムに世界の人口をひろうことができるのです。

 

たとえば、こんな数字をひろうことができました。

 

   2019年4月26日 75億3957万8925人

 

   2020年4月5日  76億765万4439人

 

これに従えば、1年間におよそ7000万人が増えたことになります。

 

世界の人口は、このままいくと、近い将来90億を超えるのでは、と見込まれています。英エコノミスト編集部『2050年の世界』によると、とくに人口増が目立つのはインド、アフリカなどだといわれています。これに対し、先進国は停滞傾向、高齢化傾向がみられるとのことです。 

 

各種の近未来予測が出されていますが、当分、世界の人口が増えるという点では一致していますが、人口増がいつまで続くのかとなると、見通しが分かれるようです。

 

最近、日本語訳が出たダリル・ブリッカーらの『2050年世界人口大減少』などは、書名のとおり、2050年くらいになると世界人口は減り始め、もとにはもどらなくなる、その予兆的な動きはすでに各地でみられる、と指摘しています。

 

このような人口増加(減少)と環境問題がどのような関わりをもつのか、さまざまな角度から考えてみる必要がありそうです。

 

(世界の食料問題)

 

食料問題もそのひとつです。増え続ける人口に見合った食料を確保できるのかどうかという問題です。

 

最近、食糧生産の制約要因が目立ってきたといわれています。すなわち、干ばつ、砂漠化の進行などにより生産適地が減少し、加えて気候変動の影響も現実のものになってきたというわけです。この間、「緑の革命」ともいわれましたが、農薬や化学肥料の多用によって生産力の向上をはかってきましたが、今後、これまでのようにはいかなくなっているといわれています。

 

他方で、世界で多くの人が飢餓で苦しんでいるといわれますが、この問題も簡単ではありません。絶対的に食料が足りないという見方があるいっぽう、食料があっても社会的・政治的な事情により食料が公平に配分されていないのが現実だという見方もあるのです。また、何らかの事情によって国際的な物流がストップした場合、国際的に食料価格が急騰することも考えられるとの指摘もあります。

 

最近では食料市場が一部の多国籍企業によって独占される傾向があるとの指摘も無視できないでしょう。

 

(日本の食料問題)

 

このようななかで、日本の食料問題に目を向けると、「食料自給率37%」の現実が見えてきます。これは、先進国の中でもとくに目立つ数字です。これでよいのか、どうしてこうなってしまったのか、今後どうするのか、よく考える必要があります。

 

ところで、食料自給率という場合、カロリーベースの数字で言われることが多いのです。37%というのもカロリーベースの数字です。食料自給率には金額ベースの数字もあります。また、いまではあまり使われませんが、穀物自給率という数字もあります。

 

いずれにしても日本の食料自給率は下がり続けてきました。1960年代のはじめには70%の食料自給利であったものが、いまや37%まで下がってしまったのです。農林水産省の政策目標では食料自給率の引上げが長年掲げられていますが、達成の見込みはほとんどありません。

 

このようななかで、農林水産業に未来があるのかというきびしい問いかけがされるにいたっています。

 

他方では、「食品ロス」の問題があります。まだ食べられる食品をごみにしてしまう「食品ロス」削減も緊急の課題だといえます。この問題はごみ問題でもありますが、食料問題という視点から見ても重要な問題だということができます。

 

(日本の人口問題)

 

世界の人口増加の流れのなかで、戦後、日本の人口も増え続けてきましたが、1億2800万人くらいをピークに人口減少の時代になったといわれています。まわりをみてもあきらかに少子化、高齢化が目立ちます。日本の人口減少の未来図も示されるようになりました。なぜ日本の人口は減少するのか、人口減少の先にあるのはどんな社会がまっているのか、人口減少と環境問題の関係はどうなるのか、など、検討すべき問題が数多くありそうです。

 

このような日本の人口減少の動きは、世界の人口の今後を考えるうえで一つのモデルになるともいわれています。