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ブックガイド 『2050年 世界人口大減少』

 

ブックガイド 『2050年 世界人口大減少』

 

人口問題の古典といえばマルサスの『人口論』である。手元の中公文庫の解説によると1798年に匿名で初版が出され、1803年に著者名を明らかにして第二版が発刊されたという。ときはまさにイギリスの産業革命が始まったころである。ここでマルサスは、人口は増え続けるが、食料生産の伸びが人口の伸びについていけるかという問題提起を行った。「人口は、制限されなければ、等比数列的に増大するが、生活資料は、等差数列的にしか増大しない」とのべたのである。この問題提起は、賛否はともあれ、多くの経済学者に影響をあたえたという。

 

人口統計が示すところでは、マルサスの指摘通り、産業革命後、人口は増え続け、20世紀においてはポール・エーリックの『人口爆発』という書名が示す通り、爆発的に増えたのである。

 

このような人口増加についてはローマクラブの『成長の限界』においても論点のひとつに取り上げられ、このまま工業化、資源の使用が続くならば地球上の成長は限界点に到達するだろうと指摘している。

 

20世紀の入り口で地球上の人口は16億人だったのが、1950年には25億人、20世紀の終わりには63億人、そしていまや76億人に達したのである。世界の人口をリアルタイムで伝えるホームページによれば、いまも、刻々と人口は増え続けている。国連の人口見通しや各種の近未来予測データでは、先進国などでは勢いが落ちはじめているというものの、世界の人口は2050年までくらいは増え続け、90億人程度に到達する見込みがたてられている。

 

問題はその先どうなるかということである。国連の見通しでも、増え続ける、緩やかな伸びに変わる、減少傾向に変わる、というようにいくつかのシナリオを持っているとのことだ。

 

このようななかで、ダリル・ブリッカー/ジョン・イビットソンの著書『2050年 世界人口大減少』が出版された。本書は、書名のとおり、2050年には世界の人口は人類史上はじめて減少しはじめ、いったん減少すると二度と増えることはないとの見通しを示している。

 

「21世紀を特徴づける決定的な出来事、そして人類の歴史上でも決定的に重要と言える出来事が、今から30年ほど先に起きるだろう。世界の人口が減り始めるのである。そしてひとたび減少に転じると、二度と増加することなく減り続ける。我々の目前にあるのは人口爆発ではなく人口減少なのだ。」「今でもすでに25カ国前後の国で人口は減り始めている。人口減少国の数は2050年までに35カ国を超えるだろう。」「豊かな先進国で人口が減っているのは大ニュースではない。驚くべきは、巨大な人口を抱える発展途上国ですら出生率が下がっており、近い将来に人口が減り始めるという点だ。」

 

このような変化がなぜおきているのか。著者たちは、ブリュッセル、ソウル、ナイロビ、サンパウロ、北京などの現地調査、現地の若い世代との対話を通じて、都市化、教育の普及、女性の地位向上にともなう出生率の低下の現実を掘り下げ、この見通しに根拠づけをしているのである。

 

人口減少の影響を緩和するためには経済移民について考えざるをえないのだが、今後「移民の不足」に直面すると指摘する。「少数民族が亡びる」」ことにも言及している。

 

本書には『未来の年表』『未来の地図帳』(いずれも講談社現代新書)で衝撃的な日本の近未来図を示した河合雅司の「少子高齢化大国・日本は、“世界の未来の姿だ”」と題する解説がついている。

 

この解説もふくめて、これからさまざまな論点を取り上げる上で、世界の人口が減り始めるかもしれない、そのとき何が起きるのか、何を準備しておかねばならないのか、ということを視野にいれておく必要があるのだ。             (2020年2月 文芸春秋刊)