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ブックガイド 鬼頭宏『人口から読む日本の歴史』

 

ブックガイド 鬼頭宏『人口から読む日本の歴史』

 

いきなりクイズです。

 

「縄文時代の人口は、つぎのうち、どれ? ①26万人 ②59万人 ③451万人」

 

正解は①の26万人です。ちなみに、②は弥生時代、③は奈良時代の人口です。

 

もちろんこれらの人口は推計値ですが、調査研究の結果、いまではこういうことがわかるようになっているのです。

 

このように、過去の人口について研究する学問を「歴史人口学」とよんでいます。速水融をリーダーとしながらこの領域の研究成果が積み上げられてきたのですが、本書はそのなかでも貴重な成果のひとつといえるのでしょう。

 

日本の人口の推移や今後の予測といえば、国立社会保障・人口問題研究所の研究・統計に従うのが通例になっていますが、明治維新までの人口動向については、本書など歴史人口学の研究データをもとにしているといわれます。

 

著者によれば、日本の人口は、過去1万年に4つの波があったといいます。

 

すなわち「人口の第一の波は、縄文システムの展開とともに生じた。第二の波は、弥生時代以降の人口増加で、水稲農耕を基盤とする水稲農耕化システムの展開によって支えられた。第三の波は、十四・十五世紀にはじまる波で、経済社会化システム、すなわち市場経済の展開に原動力を求めることができる。そして最後は十九世紀に始まり現代まで続く循環で、工業化システムへの文明転換にともなうものであった」というのです。

 

このなかで、とくに人口が大きく増加したのは「稲作農耕とその普及」によるものと、「工業化に支えられた人口成長」であったといいます。

 

著者は、日本の人口増加の4つの波について、ある段階まで増加したものが停滞し、循環の波が終わる原因はどこにあったのかという問題を投げかけています。著者の分析の視点としては、①当時の技術体系のもとで可能な耕地拡大と土地生産性の上昇の限界、②気候変動(悪化)、③疫病、④社会体制の変質、ということがあげられます。

 

本書の注目すべき点は、宗門人別改帳等を情報源とした江戸時代の人口動向分析です。宗門人別改帳は、キリシタン取締りを目的としながらも、戸籍調査としての役割を持っていたのです。「江戸時代人の結婚と出産」「江戸時代人の死亡と寿命」「人口調節機能」の各章で、経済社会化のもとでの人口動向が、特定の地域の、特定の家族の動向をふまえ、リアリティあるものとして浮かびあがるのです。

 

「工業化と第四の波」では、明治から今日までの人口増加の波がとりあげられます。この間、未曽有の経済成長のもとに人口成長が実現してきたものの、近年、長寿高齢化がすすむ一歩、出生率が低下し、子どもの数の減少、核家族化、世帯構成の変化等が進行しています。いまや、人口は停滞し、さらに減少に転ずるということが予測されています。現代の工業文明システムの成熟は何をもたらすのか、日本人口の21世紀への展望が語られるのです。

 

日本の人口は2008年、1億2808万人を頂点として減少しはじめ、しばらく減少の一途をたどるといわれていますが、本書を読むことによって、このような日本の人口動向が、一万年に及ぶ歴史のなかでくりかえされてきた文明システムの循環のなかで起きていることだということを認識できるのではないでしょうか。    (講談社学術文庫、2000年5月刊)