· 

ブックガイド 鬼頭昭雄『異常気象と地球温暖化』

 

ブックガイド 鬼頭昭雄『異常気象と地球温暖化』

 

「人が一生の間にまれにしか経験しない、大雨や強風などの短時間の激しい気象現象や、数ケ月も続く干ばつや冷夏などのこと」を「異常気象」とよぶとすると、近年、大規模な災害をもたらす「異常気象」は毎年のように起きている。本書は、その背景に地球温暖化があること、そして、地球温暖化の進行にともない「異常気象」が異常でなくなってきたことについて、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書の作成に関わる気象学の専門家の立場から警告するものである。まず、本書の内容を順にみていくことにする。

 

第1章では近年の「異常気象」の現実について、気温上昇、大雨、短時間強雨などについて具体的データをふまえてレポートしながら、これらの「異常気象」が自然の気候変動で説明できるのか、それとも地球温暖化の影響によるものかを問いかけている。

 

第2章では、気候システムや地球温暖化のメカニズムについて説明しながら、「異常気象」が起こるのは気候システムにとっては正常なことであるとはいえ、問題は自然のゆらぎに地球温暖化が重なり、その程度や頻度が変わってきていることだという。

 

第3章では、地球の誕生以来の気候変動を概括しながら、20世紀の地球の気温上昇が人為起源である「可能性が極めて高い」との認識を示す。IPCCの用語では「可能性が極めて高い」というのは「95%以上のことを指す」ということである。

 

第4章では、21世紀の地球の気温上昇など、気候変動の予測が示される。ここで「二酸化炭素の累積総排出量に比例して世界平均気温が上昇する」という認識のもとに、いくつかのシナリオが示されるが、戦略目標として気温上昇を2℃未満で抑えることの重要性が示される。

 

第5章では、地球温暖化の進行のもとで日本の「異常気象」が確実に進行するとの見通しが示される。猛暑日の増加、大雨、短時間強雨、ヒートアイランド現象の影響、スーパー台風などの「異常気象」のもとで自然災害があいつぎ発生する可能性が高いとされる。

 

第6章では、気候の「ティッピングポイント」ということが述べられる。すなわち、ある気候状態から別の気候状態に変わる「臨界しきい値」という考え方である。もはやもとにもどれないような不可逆的な気候変動が起きた場合、その時、何が起きるのか、各種の予測が示される。

 

第7章では、顕在化してきた地球温暖化の影響と将来のリスクについて紹介しながら、温暖化の程度を和らげる緩和策、温暖化の影響を防ぎ、軽減するための適応策についてのべられる。また、検討がすすめられている太陽放射管理など気候工学に関わっては、その有効性とともに副作用まで明らかにする必要があるとしている。

 

さいごに、「あらためて2℃目標は可能か」と問いかけ、「世界平均で4℃といった人類史上にない昇温した世界に生きるよりは、当面は経済的に苦しくとも温室効果ガス排出量を大幅に削減する方が、結局は得をする」としている。

 

本書で示される情報は、著者の責任で紹介されているとはいうものの、IPCCの報告書作成のなかで共有されてきた科学的知見をもとにしたものであり、信頼度の高いものである。地球温暖化は、もはや「気候危機」というべき段階にきているなかで、私たち自身の未来をまもるために足もとからの行動が求められていると重く受け止めたい。

 

 とはいえ、本書の出版は2015年ということであり、現実の「異常気象」の進行は、各種の予測以上に進行し、集中豪雨、巨大台風などによる大規模な自然災害が毎年のように発生していることから、できるものなら各種情報の更新が望まれるところである。

 

何よりも、現在、気候変動対策を検討するIPCCでは第6次報告書の準備をすすめており、また、気候変動枠組条約のもとでの国際交渉も2015年採択の「パリ協定」にもとづく国別の目標集約、その実行へと進展しているなかで、「2℃未満」でなく「1.5℃」の目標をめざして議論を進める必要があるのではないか。もっとも、それは情報更新の範囲を越え、大幅な書き換えを求めることになるのかもしれないが。(岩波新書 2015年度刊)