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私の「現代環境論」<第2部>

 

私の「現代環境論」<第2部>

 

1 環境問題と企業

 

企業が評価される時代

 

企業の不祥事があいついでいます。なかには企業の存亡にかかわる重大リスクになるような事案もあります。このような不祥事の際には「第三者評価」ということがいつも問題にされるようになりました。まさに企業が社会的に評価される時代なのです。

 

このなかで、環境問題への対応も企業評価の基準になっています。

 

環境経営を課題に

 

 企業活動の根幹に「環境」を位置づける「環境経営」の重要性が国際的に強調されるようになったのは、1984年、インドのボパールで有毒ガスが排出されたことで住民の多数が被害をうけた事故や、1989年、アラスカ沖でタンカーが原油を流出させた事故などがきっかけであったといわれています。時代はまさに地球環境問題が焦点になり、Sustainable Developmentをキー概念にしてリオの「地球サミット」(1992年)に向かおうとする時期でした。「環境経営」を志向する企業関係者が企業活動の指針として環境監査や環境管理の課題をあげ、原油を流出させたタンカーの「ヴァルディーズ」という名前をもとに「ヴァルディーズ原則」という基準をとりまとめるという動きがでてきたのです。

 

 このような動きをうけて、「地球サミット」に集まった企業関係者のなかで、ISO(国際標準化機構)のもとで環境経営のスタンダードになる「環境マネジメントシステム」の規格をとりまとめることがのぞましいという認識が共有され、ISO14001という規格が作られたのです。

 

 ISO14001では、企業が環境マネジメントシステムを構築する際の手順等が規格されており、企業の理念、事業内容等をふまえた「環境方針」にもとづく「計画」を定め、

 

 PLAN-DO-CHCK-ACT

 

のマネジメントサイクルにより、環境マネジメントシステムの継続的改善をめざすことにしています。

 

1996年に規格が発行され、日本でも取組みが開始され、2000年代には多くの企業が環境マネジメントシステムの構築に取組むようになりました。

 

 このような取組みを中小企業などでも取り組めるようにということで、京都発の簡略版の環境マネジメントシステム「KES」の認証制度もスタートしました。 

 

このような取組み内容や成果を関係者に伝え、理解・共感をえられるように、「環境報告書」を編集し、環境コミュニケーションのツールとして活用する企業が目立つようになりました。

 

また、環境配慮型の製品・サービスを普及し、市場のグリーン化をすすめるためのグリーン購入の活動が推奨されるようになりました。

 

企業は、グリーン購入法のもとで「購入の必要性を十分に考慮し、品質や価格だけでなく環境のことを考え、環境負荷ができるだけ小さい製品やサービスを、環境負荷の低減に努める事業者から優先して購入すること」(グリーン購入ネットワーク)を推進するようになったのです。

 

 第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)で採択された「京都議定書」が2005年2月に発効したことも追い風になり、環境経営の課題が推進されていったのです。

 

環境経営からCSR経営へ

 

 環境経営を推進するなかで、企業にとっては「環境」のことを重視しながらも、企業理念から求められるさまざまな社会的課題についても自らのものにしなければならないということから、CSR経営を推進する企業が出始めました。

 

CSR(Corporate Social Responsibility)とは、企業の社会的責任のことをいい、企業も社会の一員として社会のルールを守り、社会に貢献する責任があると考え、社会との良好な関係を保ちながら活動することで、企業自身の長期的な発展につながるとする考え方や行動のことをいいます。

 

このようなCSR活動を推進するCSR経営のなかに環境経営の課題も組み込まれるようになりました。

 

 CSR経営の課題としては、環境経営の枠組みを発展させ、つぎのような内容を柱に組み立てられていきました。

 

・CSRマネジメントシステム(ISO2600)

 

・先行していた「環境報告書」を発展させたCSRレポートの発行

 

・ステークホルダー(企業をとりまく利害関係者)との対話

 

 しかしながら、多くの企業でCSR経営が推進されていった時期は、実はリーマン・ショック、さらに「3・11」(東日本大震災)によってダメージをうけるなかで、いかに事業を継続し、立ち直っていくかという、当面の緊急事態をクリアしなければならない時期でもあり、CSRの取組みが後景に退き、見えなくなったのでは、という指摘が行われることもありました。

 

そのようななかでも、きびしい事業経営環境におかれているときこそ、企業の理念を明確にし、企業目標や企業価値を共有するための活動が必要なのだという企業の粘り強い取り組みがありました。

 

企業活動とSDGs

 

 2015年、環境問題は大きなターニングポイントをむかえました。第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)が「京都議定書」につづく新たな指針として「パリ協定」を採択し、他方で、国連持続可能な開発サミットがSustainable Development Goals(持続可能な開発目標)を採択したのです。これによって企業の取組みも新しい局面を迎えることになったのです。

 

 SDGsは、発展途上国だけでなく先進国もふくめて2030年にむかって国際社会が直面する課題を解決するための目標として、17のゴールと169のターゲットを示しています。その根幹にある「持続可能な開発」という考え方は「将来世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」を意味するものとされています。

 

これまでのCSR活動では、目標の設定が企業理念等をふまえ自主的に設定することがもとめられていたのに対し、SDGsは国連が採択した目標であり、CSR活動の目標を客観化するという点で大変有効なものととらえられ、多くのCSR推進企業で歓迎されたのです。従来のCSR活動(経営)の目標をSDGsで「上書き」するように取り組みが広がっているといってよいのでしょう。

 

このような動きと前後して企業の投資の在り方についても見直しが求められるようになり、ESG投資<環境・社会・企業統治という非財務項目を投資分析や意思決定に反映させる投資>も視野にいれた議論がはじまっています。

 

2 環境問題と自治体

 

日本国憲法と地方自治体

 

そもそも「地方自治体とは」と考える機会があまりないのではないでしょうか。この機会に、日本国憲法のもとでの地方自治体の位置づけに関わる関連条項を見直しておいてください。

 

日本国憲法92条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。

 

同93条① 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。

 

同93条② 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。 

 

同94条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

 

同95条 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。

 

環境問題と地方自治体

 

環境問題と地方自治体との関係についていえば、地方自治体は、

 

・地域レベルの環境政策の主体として

 

・住民要求にこたえる各種事業の主体として

 

・住民にとって身近な「協働」のパートナーとして

 

とても重要な役割をもっています。

 

条例の制定・運用

 

地方自治体は、国が定めた法律のもとで与えられる役割や責務をさまざまな施策を通じて実現していくわけですが、より具体的な根拠をもつ各種条例を独自に定めています。

 

環境分野でも、国の環境基本法に対応する環境基本条例が制定され、そのもとで審議会が設置され、環境基本計画の策定・運用が行われています。

 

また、地方自治体の置かれた状況に応じて「河川をまもる条例」「森林を守る条例」「景観を守る条例」など独自の条例を制定する場合もあります。

 

「京都議定書」を採択した地の京都府、京都市では「地球温暖化対策条例」のもとにCO2削減計画を掲げ、系統的な温暖化対策がすすめられてきました。このような取組みがあってこそ、「パリ協定」をうけた新たな目標に向かっての取組みも可能になったといえます。

 

パートナーシップ組織

 

環境分野の施策の推進のためには住民の協力が不可欠です。したがって、住民(住民組織)との連携を密にし、施策の実効性を高めるために、行政と住民(住民組織)とのパートナーシップ組織を育てていくことがとても重要です。ときには事業者組織もふくめたパートナーシップ組織も必要になってきます。より現場に近いところで課題やニーズを見つけ、その実現のために「協働」の取組みをすすめていくことが重要なのです。

 

たとえば、現在、どの地方自治体でもレジ袋削減などの課題にむけた取組みをはじめていますが、この課題などは行政だけでできるものではなく、事業者組織も、消費者・市民も、共通する目標のもとに連携しながら、それぞれが役割をはたしていくような取組みが必要なのです。そして、このような取組みをコーディネートするパートナーシップ組織がもとめられるといえます。

 

環境教育の推進

 

環境問題の解決のためには住民の意識をたかめ行動を促すための教育啓発が重要です。地方自治体としても、小中学校の学校教育から社会人教育まで環境教育を体系的に取り組むことが必要になっています。このための「環境学習センター」機能も必要になっています。

 

地方自治体がになう各種事業

 

地方自治体は、交通、水道、エネルギー、廃棄物処理、病院など、さまざまな公共事業の担い手でもあります。これらの事業を通じて住民要求にこたえ、環境政策を推進することができるのですが、他方では、これらの事業が環境に負荷をかけることもありうるわけです。

 

したがって、環境問題と企業の部分で取り上げた「環境経営」ということが地方自治体でも課題になることがあります。

 

すなわち、地方自治体における環境マネジメントシステムの構築をはかるということで、ISO14001に取組んだ地方自治体の事例も多数ありました。

 

また、地方自治体における物品・資材の調達に関わり、グリーン購入の取組みもすすめられてきました。なかには入札事業者に環境という側面から一定の条件制約をかける「グリーン入札」に取り組む事例もありました。

 

あらたな地域のビジョンづくりへ

 

こんにち重要になっているのが、環境先進自治体としてのあらたなビジョンをつくりあげ、あらたな目標の実現のために取組みを推進していくことです。とくに、地球温暖化対策、交通・エネルギー政策などが焦点になっています。

 

また、地域のSDGs目標をまとめることも課題になっています。

 

これらの取組みについては、住民側からの課題提案がもとめられるとともに、首長や議会の姿勢がとても重要になるでしょう。

 

政府に大きな政策・理念提示を求めながら、地方自治体発の独自のビジョンと行動を創出していく、リーダーシップあふれる政策主体としての取組みがはじまることを期待したいものです。

 

「先進モデル」に学びながら

 

 地方自治体が環境先進自治体にむかううえで、内外の「先進モデル」に学ぶことは大変有効なことです。

 

 たとえば、ドイツのフライブルグなどの「シュタットベルケ」(都市公社)の事例は注目され、日本にもその経験や教訓が紹介されています。電力、ガス、熱供給などのエネルギー事業を中心に広範なサービスを提供する公益事業体の「収益」を活用しながら、住民本位の各種の事業を組み合わせ、新しい地域の循環経済を実現していく取組みは、日本の各地ではじまった「地域循環共生圏の創出により持続可能な地域づくり」の動きにつながっているといえます。

 

3 環境問題と消費者・市民

 

大量消費・大量廃棄社会への反省から

 

 消費者・市民が環境問題を理解し、その消費生活・行動を変えたとき、市場・経済も変わるのです。

 

 これまで消費者・市民は「消費者は王様」といわれ、メーカーや販売事業者のいわれるままに消費生活・行動を続けてきたのではないでしょうか、

 

 ここにあげているのは、高度経済成長の時代に、ある広告代理店が商品開発・販売のための「戦略10訓」として使ったものだそうですが、消費者の心理を分析してうまく定式化したものといえます。

 

 1 もっと使わせろ  / 2 捨てさせろ

 

 3 無駄遣いさせろ  / 4 季節を忘れさせろ

 

 5 贈り物をさせろ  / 6 組み合わせで買わせろ

 

 7 きっかけを投じろ / 8 流行おくれにさせろ

 

 9 気安く買わせろ  / 10 混乱を作り出せ

 

 このようななかで、大量生産・大量流通・大量消費、そして大量廃棄の暮らしが創り出され、その結果、さまざまな環境問題が起きてきたといってもよいのです。

 

 このことに気がついた消費者・市民のなかで、「グリーンコンシューマー」を志向する動きが出始めるのです。

 

高度経済成長が「石油ショック」によって終焉しようとする時期に、このことを強く意識した消費者団体・グループの活動が始まりますが、とくに、80年代後半から90年代にかけて地球環境問題がクローズアップされるなかで、「地球をまもるために私にできることは何だろう」ということから、アースデー行事がよびかけられ、ごみ・リサイクル問題などにとりくむ消費者・市民が大きく広がりました。このなかで、「グリーンコンシューマー」をめざす消費者・市民の活動が日本の社会の中で力を持ち始めるのです。

 

「グリーンコンシューマー」をめざす

 

「グリーンコンシューマー」とは、「環境に配慮した行動ができる消費者」のことです。とくに「買い物」にあたり、環境のことを意識し、環境にやさしい商品を意識的に選択購入できる消費者のことをいいます。このような消費者が増えることにより市場のグリーン化が促進される、お買い物が社会を変えるという運動理念が形成され、強い影響力を持つに至るのです。

 

このような活動のなかで、以下のような「グリーンコンシューマーの10原則」が強調されます。それを最初から意識したのかどうかわかりませんが、内容的には「戦略10訓」に対抗する者になっているといえます。

 

 1 必要なものだけ買う

 

 2 ごみを買わない。容器は再利用できるものを選ぶ

 

 3 使い捨て商品は避け、長く使えるものを選ぶ

 

 4 使う段階で環境への影響が少ないものを選ぶ

 

 5 つくるときに環境を汚さず、つくる人の健康をそこなわないものを選ぶ

 

 6 自分や家族の健康や安全をそこなわないものを選ぶ

 

 7 使ったあと、リサイクルできるものを選ぶ

 

 8 再生品を選ぶ

 

 9 生産・流通・使用・廃棄の各段階で資源やエネルギーを浪費しないものを選ぶ

 

10 環境対策に積極的なお店やメーカーを選ぶ

 

 「環境問題と企業」の部分で「グリーン購入」について紹介しましたが、このような企業の取組みと、消費者・市民の「グリーンコンシューマー」志向の動きが連動するなかで、市場のグリーン化の課題が環境問題解決のためのひとつの課題として浮かびあがったのです。

 

「グリーンな消費」から「エシカル消費」へ

 

 企業の環境対応が、「環境」のみならず、さまざまな社会的課題に対応することがもとめられるなかで、CSR活動へと展開していったのと同じように、消費者・市民の立場から解決しなければならないさまざまな社会的課題について考え、行動することの重要さが強調されるようになるなかで、「グリーンな消費」から「エシカル消費」へと活動理念の広がりがみられるようになりました。すなわち、「エシカル消費」とは、「地域や社会、環境や人々に配慮して、モノやサービスを買うこと」をいうのですが、それは、毎日のお買いものが世界を変えるための一票になるのだとも言われ、たとえば、以下の活動などがイメージされました。

 

 1 生産者と消費者がつながる(産地指定)

 

 2 公正な価格で生産者を守る(フェア・トレード)

 

 3 海の資源を守る

 

 4 森の資源を守る

 

 5 熱帯の森と人を守る

 

 6 オーガニックな生活

 

 7 国内外の環境を守る活動の支援  (日本生協連のパンフより)

 

消費者とSDGs

 

「エシカル消費」については、企業のCSR活動と同じように、何を、どのようにとりあげればよいのか、明確な判断基準がないともいわれましたが、2015年に国連がSDGs(持続可能な開発目標)を決定したことにより、それにしたがって議論されることが多くなったようです。

 

SDGsには12番目の目標に「つくる責任、使う責任」という目標があります。商品やサービスを作り、提供する側の事業者責任と、それを使用し、消費する側の消費者・市民とを連動させながら、よりよい社会をつくりあげていこうというわけです。

 

消費者がライフスタイルを変え、環境をまもるだけでなく、より良い社会・経済をつくりあげることをめざして、商品・サービスの選択によって意思表示を行うことに大きな可能性を見出すことができるのではないでしょうか。