· 

ブックガイド 舟木賢徳『「レジ袋」の環境経済政策』

 

ブックガイド 舟木賢徳『「レジ袋」の環境経済政策』

 

循環型社会形成をめざす取り組みのなかで、レジ袋削減の取り組みが注目されている。容器包装リサイクル法の見直しを通じてレジ袋有料化、マイバッグ持参運動があらたなステージをむかえ大きな流れとなっているのだ。小売・流通業者、行政、市民団体が「協定」を交わしながらレジ袋有料化の輪を広げている「京都方式」もこのようななかで全国各地に影響を及ぼしている。

 

本書は、著者が、下水道やごみ問題などの環境問題に目覚めて調査研究を続ける最中、レジ袋が海の底にゆらゆらと幽霊のように漂うのを見たときに衝撃を受けたことに端を発し、以来、17年にわたるレジ袋削減をはじめとする循環型社会形成にむけて継続してきた研究成果を集約したものである。「レジ袋」に焦点をあてて環境経済政策を論じた類書はあまり目につかないので、現在進行形の「レジ袋」削減のとりくみのこれからを考えるうえでは一読しておきたい一冊である。

 

本書は、この間、各地でとりくまれてきたレジ袋削減・マイバッグ持参運動の調査や実践事例をとりあげ、レジ袋削減の取り組みがなかなか有効な成果をあげられない現状を具体的に紹介している。すなわち、使いすて社会を循環型社会に転換していくためには、「ごみを減らそう」という倫理的なよびかけだけでは限界があり、「ごみ有料化」や「拡大生産者責任」にもとづくリサイクルコスト負担システムの整備など、法規制や経済的手法を基礎にした環境経済政策の展開なしには有効な成果をあげることができない、としている。

 

ヨーロッパや韓国の事例紹介もそのための論証の助けとなっている。

 

ドイツやデンマークなどヨーロッパでは、早くからごみ問題の解決のためにごみ有料化やワンウェイ容器の規制措置、デポジット制度が実施され、レジ袋についても多くの国で有料化が実施されてきた。容器包装材をふくめて各種の製品についても、製造・消費段階の製造物責任だけでなく、廃棄段階にまで生産者の責任を拡大して、製造・販売会社にごみの再資源化・適正処理を義務づける「拡大生産者責任」の考え方が広く認めらており、そのためのコストをあらかじめ製品価格にくみこんでおくことが一般的である。日本が容器包装リサイクル法を策定するにあたってはドイツのデュアル・システムやフランスのエコアンバラージュ・システムを先例としたはずなのだが、いつの間にか「骨抜き」になってしまった感がいなめない。本書の論点からややはなれるが、EUが有害廃棄物対策としてROHS指令やREACH制度などを次々と展開していく現状をみると、日本の環境政策の遅れを強く感じてしまうのである。

 

韓国でも、「一回用品」の規制制度が強く推進されていることが紹介される。日本と韓国の流通・販売事情の違いがあるにせよ、一回用袋・ショッピングバッグの削減、散乱ごみ減少の効果があがっていることがわかってくる。また、容器包装材のみならず、生産者に「拡大生産者責任」にもとづくリサイクル義務が課せられていることも紹介される。

 

本書がまとめられた時期、日本の容器包装リサイクル法の見直しがまさに行われようとしていた。しかし、結果的には、ごく限られた範囲の法改正にとどまったといわざるをえない。すなわち、ヨーロッパや各国ではあたりまえになっている「拡大生産者責任」の考え方を明確にした法改正にはいたらず、生産者・販売者に対する容器包装材の引取り・再資源化の義務づけを「建前」としながらも、実際には収集運搬にあたる自治体に過度の負担をもとめて、容器包装リサイクル法のシステムに「ただ乗り」する事業者も少なくない現状を生み出している。

 

このようななかで、レジ袋削減・マイバッグ持参運動だけが焦点になっているような気がしないでもない。プラスチック包装材などの発生抑制対策をより「川上」にむかって本格的に推進していかなければ、大量消費・大量リサイクル社会はいつまでも継続するであろう。

 

最後に、本書は書き下ろしではなく、長年にわたり各所に掲載されたレポートを再構成したものであり、この問題についておおよそのことを理解するにはよいが、取材の時期を確認しながら読んだり、外国の事例についてもデータや具体的な法制度を別途確認しながら読まないと、誤読しかねないということを付記しておきたい。(リサイクル文化社 2006年7月刊)

 

(くらしと協同の研究所「協う」第104号2007年12月に掲載されたものです)