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ブックガイド 保坂直紀『海洋プラスチック』

 

ブックガイド 保坂直紀『海洋プラスチック』

 

「いま、海のプラスチックごみがクローズアップされている。外国から流れ着くたくさんのペットボトル。ウミガメなどの生き物にからみつく漁網。そして、砂のように細かく砕けてしまったマイクロプラスチック。それを魚などが食べてしまうことで、わたしたちがごみとして捨てたプラスチックは、食物連鎖をとおして地球全体の生き物の体内に入りこんでいるらしい。」

 

このような認識は、この間、日本社会でも広がってきた。そして、昨年、日本で開催されたG20を前後して策定された「プラスチック資源循環戦略」をうけて、レジ袋有料化の取組みがすすもうとしている。本書は、このようななかで出版された。

 

著者は、科学報道現場の経験を活かし、サイエンスライターとして、こんな情報があるがどうだろうか、こんな情報もあるがどうだろうかと、興味深い話題を数多く提供してくれる。

 

印象に残った話題をいくつかひろってみる。

 

「これまでにどれだけの量のプラスチックが生産され、どれくらいがごみとなっているのか。プラスチックのリサイクル率は世界的にみるとどれくらいなのか。こうした基本的な事柄も、じつはよくわかっていない」としながら、これまでに生産されたプラスチックは83億トン、使用目的では包装や容器が45%ととびぬけて多いこと、他方、廃棄されたプラスチックは63億トン、その内訳は焼却処理が8億トン、それ以外の廃棄が49億トン、リサイクルが6億トン(廃棄量の9%)という推計データを示す。

 

また、1年間に海に流れ込んだプラスチックごみは800万トンで、国別には中国がダントツで、2位のインドネシアを大きく引き離している。以下、フィリピン、べトナム、スリランカ、タイなど東南アジアの国々が続くというデータを示す。海に流れ込んだプラスチックごみは「太平洋ごみベルト」に集まると推定されるという。

 

海に流れ込んだプラスチックごみが「行方不明」になるという「ミッシング・プラスチック」の話題も面白い。

 

そもそもプラスチックは地球の自然環境の循環のための時間のスケールなどに合わないもので、地球史からみると一瞬のうちにとんでもない「負の遺産」となってしまったもので、「焼却」または「リサイクル」という強制的で人工的な手段を使わなければなくならないと指摘する。

 

「マイクロプラスチックを魚などがえさと間違えて食べ、食物連鎖をとおしてさまざまな動物の体内にはいっている」との指摘、とくにプラスチックの生産時に使用される各種の添加剤の問題点の指摘は重要である。

 

プラスチックのリサイクルについて、プラスチックごみの焼却時の熱回収をどう考えるべきかという問題が投げかけられる。日本のリサイクル率が高いという場合、この「熱回収」を含めているのである。他方で、リサイクルにはコストがかかるということについての問題提起もされる。

 

近年注目される「生分解性プラスチック」「バイオプラスチック」についてもメリット、デメリットの両面に目を向けるべきだとしている。

 

海岸での「ごみ拾い」など、一人ひとりの市民の行動が「海岸の環境をぎりぎり守り、海岸の生き物を守っている」ことや、市民の集めるごみのデータの値打ちについても言及している。

 

著者は「プラスチックごみの問題は、プラスチック製品は必要なものに限って使うのがあたりまえの社会にならなければ、解決にむかわないだろう。そのためには、法律で縛るだけではなく、市民一人ひとりがあるべき社会の姿を心に描き、小さな行いを積み重ねてそこに近づくことが、たぶん欠かせない。そして、わたしたちには、きっとそれができる」と思いを述べる。

 

(角川新書 2020年6月刊)