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「べつの道」へ

 

「べつの道」へ

 

「私たちは、いまや分れ道にいる。長いあいだ旅をしてきた道は、すばらしい高速道路で、すごいスピードに酔うこともできるが、私たちはだまされているのだ。その行きつく先は、禍いであり、破滅だ。もう一つの道は、あまり<人も行かない>が、この分れ道を行くときにこそ、私たちの住んでいるこの地球の安全を守れる、最後の、唯一のチャンスがあるといえよう」

 

これは、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』の最後の章「べつの道へ」のタイトルからとったものです。これまでとは別の、これまでとは違った、ということを強調することばです。

 

同じような意味をもつことばとして、レスター・ブラウンの「プランB」ということばを使ってきました。これまでとってきたものをプランAとするなら、それに代わるプランBをとる必要があるというのです。

 

レスター・ブラウンは、『プランB』を何度も書き直しています。最近、『大転換』という本を出しています。「べつの道」というよりももっと強く思いを表現したものになっていると思います。主要な論点は、気候変動問題にたちむかうためにエネルギー転換を求めるというものです。

 

『大転換』が出された時期は2015年、「パリ協定」が採択された時期です。「パリ協定」の重要性は何度でもいわなければならないでしょう。気候変動がまさに人類の未来をうばいかねない状況のもとで、気温の上昇を2℃未満に、できれば1.5℃以下に抑えたいという目標のもとに、各国のCO2削減の取り組みをそれぞれが目標をもって進めるというものですが、現時点で各国の目標を合わせても、現在の気候変動をくいとめることができないというのです。グレタ・トウンベリさんが「わたしたちの未来をあなたたちは奪おうとしている」と訴えていることには根拠があるのです。気候変動対策、とりわけエネルギー政策の「大転換」が求められているのです。

 

それでも「パリ協定」のもとで、世界は再生可能エネルギー100%にむかって動き始めたのです。残念ながら、日本はこの流れに乗り遅れてしまいました。

 

昨年12月に開催された気候変動枠組条約締約国会議(COP25)の場でも、日本にはきびしい批判が寄せられ、「化石賞」を受賞したというニュースもありました。COPの場で日本は毎回のように「化石賞」を受賞しています。それは、CO2の削減目標が野心的でないということ、さらに、石炭火力発電推進の姿勢を崩していないからです。

 

雑誌「世界」6月号に、気候ネットワーク代表の浅岡美恵さんの「気候変動対策に背を向ける日本政府」というレポートが載っています。

 

こういうなかで、日本のエネルギーシフトが出来るのか、ということが問われるわけです。

 

現在、日本では「第5次エネルギー基本計画」が基本になっています。この計画では、エネルギー・ミックスという立場で、原発もすてない、再生可能エネルギーも大事にする、他方で、石炭火力もすすめるというものになっています。

 

しかし、いま求められるのは、脱原発、脱石炭、再生可能エネルギー100%というものです。もちろん、原発はなくせるのか、石炭はなくせるのか、という議論があるわけですから、単純ではありません。それでも、未来のための政治決断が必要なのです。

 

脱原発については、いろいろな考えがありうるわけですが、近年、いわれているのは、原発はもはや産業として成り立たないものになっているということです。各種の安全対策に膨大な資金を投入しなければならなくなっています。何よりも使用済み核燃料の処理が見通せないというのは致命的です。それでも原発を推進するのですか、という社会的な批判に応えられるのでしょうか。

 

石炭火力発電については、最近、効率の悪いものから順に廃止していくとの方向が出されました。石炭火力からの撤退方向を示したことは歓迎されていますが、現行のエネルギー基本計画は手をつけない、CO2削減目標もかえないというのでは、問題が残ります。

 

再生可能エネルギーの主力電源化という課題についても、まだ問題が残されており、これからあらゆる可能性を探っていくことになるのでしょう。

 

コロナウイルス感染拡大により、社会経済活動が止まってしまいました。環境の側面では、大気の汚染が改善され、CO2排出量が大きく落ち込んだということもありましたが、各種の経済統計はびっくりするような落ち込みぶりです。コロナウイルス感染の出口がみえないなか、ダメージを受けた企業が力尽き、倒産に追い込まれるケースも見られるようになっています。生活困窮者も大量に生まれています。

 

こういうなかで、当座の救済策とあわせて、どのように回復するのかというビジョンが求められています。「グリーン・ニューディール」というアイデアもそのひとつです。

 

また、最近、「緑の回復(グリーン・リカバリー)」というアイデアも示されています。これらが日本の未来につながる「べつの道」になることを願いたいものです。