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ブックガイド  蟹江憲史著『SDGs』

 

ブックガイド 蟹江憲史著『SDGs』

 

SDGs(持続可能な開発目標)は2015年9月の国連サミットで採択された。

 

それ以来すでに5年が経過し、SDGsとはどんなものかという紹介の段階から、SDGsの考え方や目標を企業や組織の活動にどのようにとりいれるのか、具体的に何から始め、どのように実践していくべきかという段階に来ているはずのところに、新型コロナウイルスが感染拡大した。企業や自治体などにとっても自然災害対策と合わせ緊急対策の連続である。

 

このようななかで、SDGsの議論も、さまざまな環境問題の議論も、ともすれば後景に退きがちであり、また、議論をしても課題があまりにも多く、解決の方向をみつけるのが困難な状況になっている。

 

今回出版された『SDGs』の構成は、以下のようなものである。

   第1章 SDGsとは何か

 第2章 SDGsが実現する経済、社会、環境の統合

  第3章 SDGsの全貌

 第4章 企業はSDGsにどう取り組むべきか

 第5章 自治体におけるSDGsの取組みと課題

 第6章 皆の目標としてのSDGsへ

 第7章 SDGsのこれから

 

このような構成のSDGsの解説書が、SDGsについて詳しい著者によって世に出されれば、おそらくSDGsを考えるベーシックなテキストとして役に立つ出版物になったであろう。

 

ところが、本書は、新型コロナウイルスの感染拡大の中で「ポスト・コロナの道しるべ」として、一味違うSDGsのテキストとなって世に出されることになったのである。

 

本書が企画された時には、このような状況を想定していなかったが、いざ出版となったとき、コロナ・パンデミックに対応して、いわば仕上げの「味付け」を変えざるをえなくなったのではないかと推察できる。

 

「はじめに」で、著者は、「課題の連鎖」ということをのべながら、「課題が相互に関連しているということは、課題解決も一筋縄では行かない」「課題が相互に関係しているのであれば、何かを始めることで、波及効果が生じ、連鎖的に解決が図れることもあるだろう。あるいは、どこかにカギとなるポイント、いわゆる「レバレッジ・ポイント」というものがあり、そのポイントをおさえることで連鎖的に課題解決が図れるかもしれない。こうした課題解決の糸口を与えてくれるのが、SDGsである」と強調している。企業や組織の存亡の危機として「コロナ対策」を議論せざるをえない緊急事態のなかで、このような考え方をもつことが「ポスト・コロナ」を展望するうえでも有効だといえるのだろう。

 

「ポスト・コロナ」という議論は「グリーン・リカバリー」論をはじめ、いろいろな場でいろいろな形で行われている。この議論のなかに、SDGsの考え方を持ちこむのも、一つの「道しるべ」を示すことになるのだろう。

 

いうまでもないが、もともとのSDGsのベーシックなテキストとしての骨格部分を読むことは有意義なことである。本書を読むことで、そもそものSDGsの考え方や経緯などを確認できるのはいうまでもないことであるが、とくに巻末の「SDGsとターゲット新訳」を確認しながら第3章「SDGsの全貌」を読み込むことは、これからの企業や自治体の戦略を構築していくうえで必要なことであろう。第4章の企業の実践事例、第5章の自治体の実践事例などもよくよく学びたいことである。 (2020年8月 中公新書)