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プラスチック問題を考える

 

プラスチック問題を考える

 

 

1 いま、何が起きているのか

 

プラスチック問題は、気候変動問題とならび、現代の環境問題でもっとも注目されているテーマです。プラスチック問題という場合、どこに焦点をあてるのかによって取り上げ方はさまざまですが、とりあえず考えられる問題を列挙するならば、つぎのようなことがあげられます。

 

・プラスチックごみがあふれている

 

・とくに容器包装材。代表格にあるのがレジ袋、PETボトル

 

・市町村の「ごみ処理」がおいつかない

 

・家庭ごみの分別トラブルの多くを占める

 

・ごみ輸出ができなくなり、行き場がなくなったプラスチックごみ

 

・河川から海に流れ出すプラスチックごみ

 

・マイクロプラスチックの生きものへの影響、やがては人間への影響も

 

・心配なのが、有害性が問題にされている添加剤(ビスフェノールA、フタル酸エステルなど)のはたらき。「環境ホルモン」という言葉もあらためて目にするようになった

 

 

2 プラスチックの「2050年問題」

 

この間、プラスチック問題がとくに注目されたのは、「プラスチック海洋汚染」という問題の切り口からであったといえます。

 

「プラスチック海洋汚染」問題は、従来から、チャールズ・モアらの『プラスチックスープの海』が警告したのをはじめ、環境NGOなどから指摘されてきた問題です。

 

この問題が、国内外の政治問題にもなったのは、2016年1月の世界経済フォーラム(ダボス会議)で、「2050年までに海洋プラスチックごみの量が重量ベースで海の魚の量を上回る」との報告がされたのがきっかけになっています。

 

プラスチックの生産・消費・廃棄の実態を追跡した、アメリカの研究者チームのレポートによれば、

 

1950年から2015年までのプラスチックののべ生産量  83億トン

 

  このうち  リサイクルされたのが 6億トン

 

        焼却されたのが    8億トン

 

 結局、埋立もしくは投棄されたのが 49億トン

 

で、このままいくと2050年までに120億トンのプラスチックごみが埋立もしくは投棄対象になるというのです。

 

 

 

3 「20世紀文明」の「負の遺産」

 

プラスチックは、20世紀後半以降、私たちの暮らしや社会にはいりこみ、豊かさや便利さを実感させる、まさに20世紀文明を象徴するものでした。

 

ところが、いまや、自然に還ることのない、すなわち完全に分解されることがないという特性をもつプラスチックごみが、地上にも、海にも、あふれかえっている現実に直面しているというわけです。

 

最近、「人新世」という用語が使われ始めています。地球の歴史を考える場合の時代区分として、現在は「完新世」とよばれています。これに対して、ノーベル化学賞受賞者のパウル・クルッツェンによれば「人類が自然に匹敵するような強大な力をもつようになった時代」を「人新世」とよび、それは1950年ごろからはじまったというのです。

 

将来、私たちが生きていた時代の地層を調べたとき、プラスチックが大量に発掘されるのではないかといわれると、とても複雑な思いがします。このままいくと、プラスチックごみは「20世紀文明の負の遺産」として未来の地球まで残っていくというわけです。

 

 

 

4 プラスチック削減の取組み

 

こういうなかで、プラスチック削減の取組みが国内外で進み始めたのです。

 

2017年に開催された国連環境計画(UNEP)の意思決定機関である国連環境総会では「海洋プラスチックごみおよびマイクロプラスチック」に関する決議が採択されました。

 

2018年6月、カナダで開催されたG7では「海洋プラスチック憲章」が「首脳コミュニケ」として採択されました。(米・日は署名せず)

 

日本政府は、2019年6月の「G20」での国際協議を前に、急きょ、「プラスチック資源循環戦略」の策定作業をすすめました。このなかで、プラスチック問題についての情報共有がすすんでいったといえます。

 

また、前後して、プラスチックごみを海外輸出することについてバーゼル条約の規制対象に加えるということも決定されました。

 

 

 

5 「プラスチック資源循環戦略」の「目玉」になったレジ袋有料化

 

ことし7月1日からレジ袋の有料化が全国一斉に義務化されました。これは、昨年検討された「プラスチック資源循環戦略」の「目玉」といえる取組みです。

 

レジ袋は、日本国内で毎年450億枚程度配布されているといいます。スーパーなどではこれまでから有料化し、レジ袋辞退率は8割ほどになっていたとのことです。

 

今回の取組みは、コンビニその他全業種の事業者を対象にし、また、全国的な取組みにしたことによってその教育啓発効果、インパクトはとても大きかったといえます。

 

これから、この取組みの効果についてさまざまな角度から検証されていくことでしょうから、注目していきたいと思いますが、今回のレジ袋有料化をめぐっては、気になることがありましたので、記しておきます。

 

・レジ袋をゼロにしても、プラスチック容器包装材のごく一部でしかない

 

 ・なぜPETボトルは規制されないのか

 

 ・海洋生分解性プラスチック素材のレジ袋などを例外として認めた問題

 

 ・容器包装材全般の資源循環戦略はどのようにすすめられるのか、見えてこない

 

 ・プラスチックのサーマル・リサイクルはどう評価するのか

 

 これらの問題点についてひきつづき調査研究をすすめていきたいと思っています。

 

 

 

<参考文献>

 

 枝廣淳子『プラスチック汚染とは何か』(岩波ブックレット)

 

インフォビジュアル研究所『図解でわかる14歳からのプラスチックと環境問題』(太田出版)

 

チャールズ・モアら『プラスチックスープの海』(NHK出版)

 

保坂直紀『海洋プラスチック』(角川新書)