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ブックガイド 山本智之『温暖化で日本の海に何が起こるのか』

 

ブックガイド 山本智之『温暖化で日本の海に何が起こるのか』

 

 

 

環境問題といえば何といっても地球温暖化問題がトップにあがる。地球温暖化問題は、いまや気候変動、さらに気候危機といわれるようになり、巨大台風、集中豪雨など、目に見えてその影響が出始めている。

 

本書は、この問題を、日本の海を舞台に、その生態系の影響をリアルに、わかりやすく、親しみやすい形で論じている。

 

地球温暖化によって海に何が起こるのかというと、ふだん海面の上昇などの問題が論じられるのだが、本書では、日本のコンブが激減し、サケの漁獲量にも影響がではじめているなど、日本人が長年親しんできた「海の幸」に大きな変化を及ぼすことが具体的にとりあげられる。

 

日本近海の海面水温は、この100年で1.14℃上昇しているといい、それにともない「水面下の世界」で異変が生じているという。

 

その事例として、沖縄の海で発生したサンゴの「白化現象」の深刻な実態がレポートされる。サンゴ礁は、「海の熱帯雨林」とよばれるように、さまざまな海の生きものがあつまる場所であり、その生態系の危機はすなわち「生物多様性の危機」というべきものだと指摘される。

 

2018年に出されたIPCCの特別報告書では世界の平均気温が1.5℃上昇すると、サンゴの生息域の70~90%が焼失し、2℃の上昇では99%以上が失われると予測されている。これは日本のサンゴ礁にも通じることで、実に深刻な見通しである。

 

「日本近海」で生じつつある「異変」として魚の分布海域が北上していることがあげられる。地球温暖化の影響で黒潮の流れが加速されることにより、今まで以上に遠くまで運ばれてくることもふくめ、水温の上昇にともない、日本近海に南方の魚が目立ち始めたという。舞鶴湾で行われている魚類相の調査では、1970年代には姿が見られなかった魚が多数見られるようになったという。本来は東シナ海や瀬戸内で生息してきたサワラが日本海で多数水揚げされるようになった。フグの生息域も変化しているだけでなく、食用に不向きな「雑種フグ」や「危険なフグ」が目立つようになった。

 

サンマの不漁も海水温と関係があるとみられ、今後、サンマは小型化して「冬の味覚」になると見込まれている。「食卓から「四季」が消える」のではないかというのである。

 

著者は、もうひとつ、温暖化の進行により海洋酸性化が加速することも生態系に影響するのではないかと指摘する。

 

このようななかで始まる日本人の食生活の変化について「どうなる?未来のお寿司屋さん」という切り口からわかりやすく解説する。すなわち、日本人が長年親しんできた寿司ダネのクロマグロ、ホタテガイ、アワビ、ウニなどは今までのようには食べられなくなるのではないかというのである。

 

著者は科学ジャーナリストとして「海洋」をテーマに取材を続けている。国内外での潜水体験をふまえたレポートは具体的で、迫力がある。本書もそのひとつであり、サンゴ礁の変化のレポートは自身の潜水取材をもとにしたものである。(2020年9月 講談社ブルーバックス)