· 

ブックガイド 堅達京子『脱プラスチックへの挑戦』

 

ブックガイド 堅達京子『脱プラスチックへの挑戦』

 

 

 

著者は、NHKスペシャルなどの制作にあたってきたということで、本書も2019年4月14日に放映されたBS1スペシャル番組をもとにしたものだそうです。

 

映像をもとにメッセージを伝えていく場合、いつ、どこで、だれが、どのような行動をしたのかということをカメラで切り取り、つなぎ合わせていくという手法をとることになります。これは、抽象的な思考経過をたどったり、文献資料や事件データをもとに論証していく出版物をつくる場合とまったく違った方法になるようです。それが説得力をもつかどうかは、まさに取材力によるものです。この点では、いつもNHKスペシャルなどの取材力のレベルの高さを感じています。

 

著者が制作にあたったということを今回知ったのですが、『激動する世界ビジネス“脱炭素革命”の衝撃』でも、カメラは世界中を回って歩き、さまざまな事象を映像としてとらえ、キーパーソンにインタビューをしていくなかで、気候変動問題の深刻さとそれに立ち向かう政治、ビジネスの動向を伝えていました。この番組はしばらく話題になったものです。

 

本書のもとになったスペシャル番組は、残念ながら見逃していますが、本書を読むことで、こんな映像が流れたのだろうと想像することができるようです。

 

著者の問題意識は、今回は「脱プラスチック」を入口のテーマにしながらも、気候変動問題とも連関しながら広がりをもち、最終的には、「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」へのティッピングポイント(臨界点)まで残された時間がない、このなかで何ができるか、果敢に挑戦する事例から何を学ぶべきかを考えようというものだと受け止めたいと思いました。

 

第1章では、世界の海に毎年910万トンものプラスチックごみが流れ込んでおり、このまま増え続けると2050年には魚の量を超えるというプラスチック海洋汚染の現実と、それに立ち向かうオーシャン・クリーンアップの挑戦が紹介されます。

 

第2章では、脱プラスチックを目指して「循環経済」の実現に向かう世界の動きが紹介されます。そして、これに対して日本の動きが遅い、いま問われるのは「本気」だ、というのです。

 

第3章では「人新世」と呼ばれる時代に入ったなかで、SDGs(持続可能な開発目標)や、それを支える「プラネタリー・バウンダリー」の考え方などに注目しながら、地球はすでに気候非常事態にあると強調します。そして、未来のために立ち上がった16歳の少女グレタ・トウーンベリさんの行動、それに呼応する「未来のための金曜日」の活動などの動きが紹介されます。また、脱プラスチックのためにはじまったビジネスの動きについても紹介されます。

 

第4章は、ヨハン・ロックストロームとトーマス・フリードマンの「未来への提言」が紹介されています。

 

第5章では、2030年までが「地球の限界」に挑む「正念場」であり、この「最後の10年」をどう生きるかとの問いかけがされています。

 

最後に、私たち一人ひとりにできることとして、以下のことがあげています。

 

1 ライフスタイルを見直す

 

2 「循環経済」全体を意識する

 

3 「脱」をポジティブに捉える

 

4 SNSを活用して声を広げよう

 

5 グレタ世代とともに「ソーシャル・ティッピングポイント」へ

 

まさに私たちの覚悟と行動が問われているのです。(2020年2月 山と渓谷社刊)