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環境政策の課題(1)気候変動問題

 

環境政策の課題(1)気候変動問題

 

 

 

気候危機

 

これからの環境政策の課題について、最近、話題になっていることをとりあげて紹介します。

 

まず気候変動問題です。この問題は、何といっても現代の環境問題の最大の問題です。

 

気候変動問題の現在をどのように認識すべきか、ということから始めます。

 

「地球温暖化」といっても「気候変動」といってもかまわないのですが、現実に進行していることを見ると、気温上昇にとどまらず、巨大台風や集中豪雨、他方での干ばつなど、さまざまな異常気象が起きており、「気候変動」といったほうが適切なのではないかというわけです。

 

さらに、最近は「気候危機」という表現もではじめています。

 

それだけ気候変動は危機的な状況にすすんでいるという認識の表現です。

 

最近出版された山本良一著『気候危機』(岩波ブックレット)は、書名に「気候危機」を使っています。また、「気候崩壊」「気候非常事態」などの表現も見られるようになっています。

 

これも最近出版されたものですが、デイビッド・ウオレス・ウエルズ著『地球に住めなくなる日』(NHK出版)でも「気候崩壊の連鎖が起きている」として「気候変動によるさまざまな影響」を論じています。その項目をひろってみます。

 

頻発する殺人熱波/飢餓が世界を襲う/水没する世界/史上最悪の山火事/自然災害が日常に/

 

水不足の脅威/死にゆく海/大気汚染による生命の危機/グローバル化する感染症/

 

気候戦争の勃発/大規模な気候難民

 

これらの個々の事実はともかく、気候変動が何をひきおこしているのかについてつかんでもらえたらと思うのです。

 

相次ぐ巨大台風、集中豪雨にともなう自然災害、記録的な猛暑や暖冬など、日本の現実を見ても、確実に気候変動は進行しているといわねばなりません。

 

こんなところに影響が及ぶのかと思ったことですが、たしか1月からだったと思いますが、火災保険料などが大幅に値上げになるそうです。私の事務所の保険も掛け金が上がりました。2018年以来の自然災害対応で保険会社の支払額が大きく伸びたため、掛け金の値上げに至ったというわけです。

 

いまや「気候危機」の時代にはいったとの認識が必要です。気候変動を抑えるために、脱炭素社会にむかって社会・経済全体が大きく転換することが求められています。

 

 

 

「パリ協定」をめぐって

 

2015年12月、COP21はパリで開催され、気候変動対策が緊急の課題になっていることを確認し、「パリ協定」を採択しました。

 

「パリ協定」は、

 

・世界全体の目標として、気温上昇を2℃より低く抑える、さらに1.5℃未満にむけて努力する、

 

・今世紀後半に温室効果ガスの排出と吸収を均衡させる

 

・各国の削減目標の作成・報告、その達成の国内対策を義務化する

 

・途上国への支援

 

・被害の軽減策を削減策と並ぶ柱にする

 

など、これまで以上に踏み込んだものになっています。しかし、これらの目標を達成したとしても気候変動が止められるかどうかという問題を抱えているのです。

 

「パリ協定」をめぐって注目すべきことは、アメリカの政権交代です。トランプ政権が誕生したのは「パリ協定」発効と同じ時期でしたが、トランプ政権は「パリ協定」に背を向けてしまいました。困難な交渉を経て発効した「パリ協定」の実効性を弱めてしまう動きだったからです。

 

この動きには、国際的に批判の声が上がりました。なかでも、たった一人で気候変動問題に関わり、「私たちの未来を奪わないで」と訴えて、「ストライキ」を始めたグレタ・トゥーンベリさんの行動は世界中が注目することになりました。グレタさんの行動に呼応してはじまった「未来のための金曜日」の行動は多くの若い世代の参加のもとに広がってきました。

 

今回、アメリカ大統領選の結果、バイデン政権に移行します。新しい政権が「パリ協定」に復帰し、気候変動対策で重要な役割を担うことが期待されています。

 

このようななかで、日本が「京都議定書」を採択したCOP3の議長国としてどのような役割を発揮すべきかが問われています。

 

日本はもちろん「パリ協定」に参加していますが、残念ながら立ち遅れが目立っていました。

 

日本のCO2削減目標は、現在、「2013年度を基準にして26%削減」ということです。このレベルでは国際的には決して評価されず、気候変動枠組み条約締約国会議での交渉の場では、日本がより「野心的な目標」を掲げるように求められるケースがしばしばです。国際NGOからは交渉を後ろ向きにさせる国とされ、「化石賞」を与えられることがしばしばありました。

 

 

 

日本政府の取り組み

 

このようななかで、今回、発足した菅内閣では、菅総理の所信表明演説で示したように、「成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げて、グリーン社会の実現」を目指すとし、「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言するにいたりました。

 

この所信表明演説を受けて、2050年、「実質ゼロ」の達成に向けてさまざまな動きが始まろうとしています。「環境」を成長戦略にするということから、関連投資についての税制面からの支援がさまざまに検討されています。また、新しい動きとして自動車の脱炭素化の動きが報じられています。

 

これらの動きは、諸外国の動きに比べれば決して先進的なものとは言えないものですが、従来、議論されなかった政策メニューが次々検討されるようになったことは歓迎すべきことです。

 

問題は、こうした動きがどこまで本格的な取組みになるのかということで、菅政権の本気度が問われることでしょう。

 

このところのコロナ対策をめぐっては、感染防止策と経済回復策を同時に進める、いわばブレーキとアクセルを同時に踏むような政策をとっていることが話題になっていますが、CO2削減対策と、CO2が排出される経済成長対策を同時にすすめることが当分継続されることが見込まれるなかで、脱炭素社会に向かって本気で様々な政策転換をはかることができるのかということが問われるのです。

 

気候変動対策は急務です。気候変動対策を本格的にすすめるという立場からの国のあり方、基本ビジョン、各種の中・長期計画の見直しが求められているといわねばなりません。その点で、重要なことは、諸外国に事例があるように、「2050年、実質ゼロ」という目標を明確にする「気候変動対策法」(仮)とでもいうべき法律を制定し、気候変動対策の枠組みを不動のものにすることが重要です。この見通しがはっきりすれば、企業の動きは自ずと始まるということができます。再生可能エネルギーへの本格的な転換、自動車の脱炭素化につづいて建築物の脱炭素化など、さまざまな領域で脱炭素化の動きがはじまることを期待したいものです。

 

また、「パリ協定」のもとでの国際的な取組みにも積極的に参加していくことが求められます。その点で、まず行うべきことは、日本のCO2削減目標について、現在の「2013年を基準にして26%削減」という目標を大きく引き上げ、日本の姿勢をはっきり示すことが大事です。