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ブックガイド 井出留美『食料危機』

 

ブックガイド 井出留美『食料危機』

 

2020年のノーベル平和賞は国連WFP(国連世界食料計画)が受賞した。このことにより世界の食料危機の実態があらためて注目されることになった。世界で飢餓に苦しむ人は7億人近いとされる。すなわち、世界の11人に1人が十分な食べ物が入手できていないことになる。

 

本書は、このような現実を直視し、食品ロス問題とその対策を広く訴えてきた著者が、こんご食料危機がさらに悪化する見込みだという中で、この問題を何とか伝えたいという思いのもとに執筆したものである。著者の思いの基礎には「だれひとり取り残さない」というSDGs(持続可能な開発目標)の掲げる、2030年までに小売・消費段階の食料廃棄を半減し、飢餓と貧困を終わらせるとの目標がある。

 

著者は、最初に、食料危機、あるいは飢餓の定義について『ブリタニカ国際大百科事典』の記述や各界専門家の見解を見渡したうえで、その原因について論じている。一般的に、食料危機の原因は人口の増加に見合う食料が確保できないという見解が存在するのだが、「分配の不平等」「強者による搾取」などに目を向けるべきだとして、アマルティア・センの「飢餓とは、十分な食料が手に入らない人たちがいるということであり、十分な食料がないということではない」という言葉を紹介している。このような論点については、本書にも名前が出てくるジャン・ジグレールの『世界の半分が飢えるのはなぜ?』を読んだときに考えさせられたことでもあるが、大事にしたい視点だと思った。

 

著者は、このようなことを前提に、専門家へのインタビューをまじえながら、食品ロス、気候変動、バイオ燃料、肉食の増加など、現在直面している主要な問題について、論点を紹介している。なかでもサバクトビバッタの大発生に伴う食料不安については個人的にはとても印象深い問題であった。コロナと食料危機という論点もホットな問題である。

 

そこで著者は、まだ食べられるのに廃棄してしまう食品ロスの削減、捨てられる食べ物を引き取り、必要な人に渡すフードバンク、生ごみの資源化の活動の意義や重要さについて強調する。そして、一人一人がその気になればすぐにできるヒントとして「すぐ食べるなら店頭では手前においてある賞味期限・消費期限の近づいた値引き商品から買う」「買い物へ行く前に冷蔵庫や食品庫を見てから行く」などの「アクション100」をあげて消費者の意識啓発を行うのである。

 

著者の問題意識の広さによるのだろうが、取りあげられる話題がいささか多岐にわたりすぎるような印象もあるが、気になった論点を巻末の参考文献などをもとに追いかけていけばよいのだろう。

 

 いずれにせよ、食料自給率がカロリーベースで38%という日本でありながら、食料確保に対する人々の危機意識がないことこそ、真の日本の食料危機ではないかという警告に耳を傾け、私たちに何ができるのかを考えてみることが必要なのではないだろうか。

 

(PHP新書 2021年1月刊)