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SDGsを考える

  SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の前提となる「持続可能な開発」(Sustainable Development)という概念は、1987年にまとめられた「環境と開発に関する世界委員会」の報告書で示されたものです。

この委員会は、1980年代になって、地球温暖化、フロンガスによるオゾン層の破壊、酸性雨、海洋・湖沼汚染、熱帯林の減少、砂漠化の進行、野生生物の減少、有害廃棄物の越境移動、途上国の公害問題などをめぐって情報の共有、問題解決のための国際的な共同の取組みの検討がされるなかで、国連決議のもとに設置された特別な会合です。委員長がノルウエーのブルントラント首相であったことから、ブルントラント委員会ともいわれています。

3年余の活動の成果をまとめた報告書「Our Common Future」のなかで「持続可能な開発」という概念はキー概念として示されたのです。

報告書によれば、「持続的な開発とは、将来の世代の欲求を充たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発をいう」と定義されています。

「持続可能な開発」という概念は、1992年、リオデジャネイロで開催された「地球サミット」(国連環境開発会議)に至るまで、各地で、さまざまなテーマで開催された環境問題の国際会議のベースになるものでした。そして、「地球サミット」は、この概念を「環境と開発に関するリオ宣言」「アジェンダ21」「気候変動枠組条約」「生物多様性条約」などの環境政策に具体化する機会になりました。日本でも、これ以来、「持続可能な社会」という目標が掲げられ、「低炭素型社会」「循環型社会」「自然共生型社会」など分野別の目標をかかげながら、さまざまな取組みがすすめられてきました。

SDGsは、この「持続可能な開発」という概念を前提に、2015年9月に国連が採択したものです。SDGsは、発展途上国だけでなく先進国もふくめて2030年にむかって国際社会が直面する課題を解決するための目標として、「17のゴール」と「169のターゲット」を示しているものです。

SDGsは、採択から5年が経過し、SDGsとはどんなものかという紹介の段階から、SDGsの考え方や目標について、具体的に何から始め、どのように実践していくべきかという段階に来ています。このような時にあたり、あらためてSDGsについて情報を整理し、こんごに活かすようにしたいと思います。

 

 SDGsといえば、カラフルなロゴやアイコン、カラーホイルをイメージする方が多いと思いますが、もとは「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」と題する30数ページに及ぶ長い国連文書のなかで示された「17のゴール」と「169のターゲット」なのです。

 

手元に「2030アジェンダ」の外務省仮訳があります。これをもとに文書全体の構成について説明をすることにします。

まず「前文」があります。ここで「このアジェンダは、人間、地球および繁栄のための行動計画である」とし、「我々は、世界を持続的かつ強靭(レジリエント)な道筋に移行させるために緊急に必要な、大胆かつ変革的な手段をとることに決意している。我々はこの共同の旅路に乗り出すにあたり、誰一人取り残さないことを誓う」と宣言しています。この「誰一人取り残さない」というのがキーワードです。そのうえで「17のゴール」と「169のターゲット」について「これらの目標及びターゲットは、統合され不可分のものであり、持続可能な開発の三側面、すなわち経済、社会及び環境の三側面を調和させるものである」としています。

 

次に「宣言」の部分があります。ここで「取り組むべき課題」「目指すべき世界像」「共有する原則と約束」「新アジェンダの枠組み」「行動のよびかけ」などが示されます。

「宣言」の最後の「結語」には「人類と地球の未来は我々の手の中にある。そしてまた、それは未来の世代にたいまつを受け渡す今日の若い世代の手の中にもある」という印象深いフレーズがでてきます。

 

このあとに「17のゴール」と「169のターゲット」が提示されているのです。そのうえでSDGsの「実施手段」「フォローアップとレビュー」について述べられています。

この「2030アジェンダ」が掲げるSDGsの「17のゴール」はつぎのようなものでした。

 

目標1 あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる

目標2 飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する

目標3 あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する

目標4 すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する

目標5 ジェンダー平等を達成し、すべての女性および女児の能力強化を行う

目標6 すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する

目標7 すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する

目標8 包摂的かつ持続可能な経済成長およびすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する

目標9 強靭(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る

目標10 各国内および各国間の不平等を是正する 

目標11 包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市および人間居住を実現する

目標12 持続可能な生産消費形態を確保する

目標13 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる

目標14 持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する

目標15 陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復および生物多様性の損失を阻止する

目標16 持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する

目標17 持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する

 

このような国連文書を直訳したものでは、その重要性は理解できてもなかなかなじみにくいものとうけとめられたのが実際だったように思います。

この「なじみにくさ」を解消するために工夫・開発されたのが、いま私たちが見ることのできるカラフルなロゴ、アイコン、カラーホイルなのです。

「17のゴール」もつぎのようなキャッチフレーズのように示されることになりました。

 

1 貧困をなくそう 2 飢餓をゼロに 3 すべての人に健康と福祉を 

4 質の高い教育をみんなに 5 ジェンダー平等を実現しよう 

6 安全な水とトイレを世界中に 7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに 

8 働きがいも経済成長も 9 産業と技術革新の基盤をつくろう 

10 人や国の不平等をなくそう 11 住み続けられるまちづくりを 

12 つくる責任 つかう責任 13 気候変動に具体的な対策を 

14 海の豊かさを守ろう 15 陸の豊かさも守ろう 

16 平和と公正をすべての人に 17 パートナーシップで目標を達成しよう

 

 いまではSDGsの「17のゴール」は、一般的には、このような「17のアイコン」として理解され、活用されているのです。

 これによってSDGsはわかりやすくなったといえますが、他方では、イメージだけが先行しているのではないかともいわれています。

 

 現実を変革するための目標としてSDGsを実際に活かすためには「17のゴール」がそれぞれ何を目指しているのかを示す「169のターゲット」を視野に入れて、実践的な行動目標や行動計画を作りあげることが必要なのでしょう。