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ブックガイド『木のストロー』

ブックガイド アキュラホーム・西口彩乃『木のストロー』

「木のストロー」をご存じですか。本書は、この「木のストロー」の「開発ものがたり」です。

ひとつの製品が開発されるには、1、アイデアの提案、2、企画決定、3、材料の調達、4、製造、5、販売、6、販売後の対応、といった一連のプロセスがうまくクリアできないといけないので、現実には「アイデア倒れ」に終わる事例が数知れなくあるのでしょう。

そういうなかで「木のストロー」はうまく上昇気流に乗り、ひとつの社会的ポジションをえるにいたった事例といえます。

アイデアは環境ジャーナリスト・竹田有里の提案によるものでした。2018年の西日本の集中豪雨の被災地を訪れた竹田は、適切な森林管理ができていないことが土砂災害につながったのではないかということから間伐の重要さに気づき、さらに間伐材をうまく活用した「木のストロー」ができないか、というアイデアをもったのです。

竹田は、交流のあった木造注文住宅会社のアキュラホームの広報担当であった本書の著者・西口彩乃に「アキュラホームで気のストローをつくれないかな?」ともちかけたのです。

この提案をうけた著者は、手探り状態のまま「木のストロー」づくりをはじめます。失敗を重ねながら、やがて杉をカンナで薄く削り、専用のりを使って巻き上げた「木のストロー」ができあがるのです。メディアを集めた商品企画説明会は大成功。しかし、商品の生産現場はトラブルの連続、後追いで生産体制の整備をするような苦労が続きました。

こういうなかで、「木のストロー」は、「G20」での使用が決まり、注目度が一気にたかまるのです。間伐材を活かしてプラスチック問題の解決につなげようという「木のストロー」のアイデアは、その年の「地球環境大賞」ほか各種表彰の対象になりました。

 

できあがった「木のストロー」、実際の評価はどうなのでしょう。本書の「おわりに」で、発案者の竹田は「木のストローの価値というのは、それを使っていただくことによって、山を守っている方へ利益を還元できたり、福祉施設で働いておられる方々の雇用機会につながるというところにあります」「私たちは、紙のストローや生分解性ストローと競っているわけではありません。また、木のストローだけで環境問題を解決したり、障がいのある方の雇用問題を解決できるとも考えていません。脱プラスチックストローの選択肢の一つとして、手に取って、お使いいただくことで、木のストローを取り巻く社会問題を考えるきっかけにしていただきたいということが、当初からの思いです」とのべていますが、環境問題に取組むとはどういうことなのかを考えるうえで大事な、ひとつの視点というべきでしょう。(扶桑社 2020年10月)