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SDGsを考える(2)

SDGsを考える(2)

―――企業活動とSDGs

SDGsは、採択から5年が経過し、SDGsとはどんなものかという紹介の段階から、SDGsの考え方や目標について、具体的に何から始め、どのように実践していくべきかという段階に来ています。今回は「企業活動とSDGs」をとりあげ、企業活動においてSDGsがどのようにとらえられ、生かされようとしているのかを見ることにします。

 

 企業にとっては、本来の事業活動とともに、環境問題への対応や、さまざまな社会的課題への対応がもとめられる時代になっており、それが企業評価にもつながる時代になっています。

(環境経営を課題に)

 企業活動の根幹に「環境」を位置づける「環境経営」の重要性が国際的に強調されるようになったのは、1984年、インドのボパールで有毒ガスが排出されたことで住民の多数が被害をうけた事故や、1989年、アラスカ沖でタンカーが原油を流出させた事故などがきっかけであったといわれています。時代はまさに地球環境問題が焦点になり、Sustainable Developmentをキー概念にしてリオの「地球サミット」(1992年)に向かおうとする時期でした。

「環境経営」を志向する企業関係者が企業活動の指針として環境監査や環境管理の課題をあげ、原油を流出させたタンカーの「ヴァルディーズ」という名前をもとに「ヴァルディーズ原則」という基準をとりまとめるという動きがでてきたのです。

 このような動きをうけて、「地球サミット」に集まった企業関係者のなかで、ISO(国際標準化機構)のもとで環境経営のスタンダードになる「環境マネジメントシステム」の規格をとりまとめることがのぞましいという認識が共有され、ISO14001という規格が作られたのです。

 ISO14001は、1996年に規格が発行され、日本でも取組みが開始されました。2000年代には多くの企業が環境マネジメントシステムの構築に取組むようになりました。

その取組み内容や成果を関係者に伝え、理解・共感をえられるように、「環境報告書」を編集し、環境コミュニケーションのツールとして活用する企業が目立つようになりました。

また、環境配慮型の製品・サービスを普及し、市場のグリーン化をすすめるためのグリーン購入の活動が推奨されるようになりました。企業は、グリーン購入法のもとで「購入の必要性を十分に考慮し、品質や価格だけでなく環境のことを考え、環境負荷ができるだけ小さい製品やサービスを、環境負荷の低減に努める事業者から優先して購入すること」(グリーン購入ネットワーク)を推進するようになったのです。

(環境経営からCSR経営へ)

 環境経営を推進するなかで、企業にとっては「環境」のことを重視しながらも、企業理念から求められるさまざまな社会的課題についても自らのものにしなければならないということから、CSR経営を推進する企業が出始めました。

CSR(Corporate Social Responsibility)とは「企業の社会的責任」のことをいい、企業も社会の一員として社会のルールを守り、社会に貢献する責任があると考え、社会との良好な関係を保ちながら活動することで、企業自身の長期的な発展につながるとする考え方や行動のことをいいます。このようなCSR活動を推進するCSR経営のなかに環境経営の課題も組み込まれるようになりました。

 しかしながら、多くの企業でCSR経営が推進されていった時期は、実はリーマン・ショック、さらに「3・11」(東日本大震災)によってダメージをうけるなかで、いかに事業を継続し、立ち直っていくかという、当面の緊急事態をクリアしなければならない時期でもあり、CSRの取組みが後景に退き、見えなくなったのでは、という指摘が行われることもありました。

そのようななかでも、きびしい事業経営環境におかれているときこそ、企業の理念を明確にし、企業目標や企業価値を共有するための活動が必要なのだという企業の粘り強い取り組みがありました。しかし、CSRについてはISO26000の規格が整備されたものの、外部からの認証をもとめない、自主的なマネジメントシステムであることから、マネジメント目標の設定にしても、その達成のためのプロセス管理にしても、その取り組みの評価基準があいまいになることもありました。

(企業活動とSDGs)

 2015年、環境問題は大きなターニングポイントをむかえました。第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)が「パリ協定」を採択し、他方で、第70回国連総会が「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択し、ここでSDGsも確認されたのです。

これまでのCSR活動では、目標の設定が企業理念等をふまえ自主的に設定することがもとめられていたのに対し、SDGsは国連が採択した目標であり、CSR活動の目標を客観化する、そして、SDGsは「持続可能な開発を、経済、社会および環境というその三つの側面において、バランスがとれた形で達成すること」をめざすものとして、企業活動全体を包み込むマネジメントツールになるものとして歓迎されたのです。

このような動きと前後して企業の投資の在り方についても見直しが求められるようになり、ESG投資<環境・社会・企業統治という非財務項目を投資分析や意思決定に反映させる投資>という議論がはじまりましたが、このような投資のあり方を考える場合の評価基準としてもSDGsが有効だとされたのです。つまり、投資先の企業がSDGsの視点からみて積極的な企業かどうかを評価し、投資するかしないかを決定するということがあたりまえになってきたのです。

このようななかで、多くの企業が、環境問題への対応もふくめ、様々な社会的な課題といかに関わってくべきかという場合の基準としてSDGsを位置付け、本来業務そのものについてもSDGsの視点から見直しを行う動きが強まっているのです。

他方で、SDGsが社会全体に浸透してくるにつれ、SDGsが企業評価の基準にもなりはじめているのです。

※「循環経済」第46号に掲載した「私の「現代環境論」:環境問題と企業」の記事内容と一部重複しています。

 

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ブックガイド 笹谷秀光『Q&A SDGs経営』

「近江商人の経営理念である「三方よし」(自分よし、相手よし、世間よし)がわかりやすい。「世間」の課題が、今はSDGsだと考えればよい。ただし、そこには1つ補正が必要だ。「陰徳善事」という言葉があるように、日本企業は、「人知れず社会に貢献しても、わかる人にはわかる」と考え、あえてみずから発信しないことが多かった。しかし、グローバル社会ではとても通用しない。発信により同じ志を持った仲間が増え、そこからイノベーションが起こる。そこで、筆者は、「発信型三方よし」を提唱している。」(はじめに)

著者は現在CSR/SDGsコンサルタントとして活躍中。元伊藤園常務執行役員。

 

(日本経済新聞出版社 2019年10月刊)