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ブックガイド 食料と人類

ルース・ド・フリース著『食糧と人類』

 

本書は「副題」に「飢餓を克服した大増産の文明史」とあるように、食糧をめぐっての人類史である。「プロローグ」には、本書がめざすのは「人類が歩んだ旅路をなぞり、どのような経緯でここまで到達したのかをあきらかにすることである。今までを振り返れば、きっとこの地球上でのわたしたちの未来の姿が見えてくるはずだ。」としている。

地球上に生命が誕生し、人類の誕生をむかえるまで、長い時間を必要とした。数百年前、チンパンジー、ボノボ、ゴリラなどから分化した人類の祖先は、直立二足歩行をはじめ、手を自由に使い、道具、火、言葉を使用するようになった。やがて、狩猟採集の生活から農耕生活を開始する。それによって定住生活が可能になり、人口が増え始める。それは、「人口圧」による「食料不足」のはじまりであった。そのなかで、自然のめぐみを活かし、食糧確保の道をみいだしていく。

人類の歴史はまさにこのくりかえしであったというのである。

本書は、その事情について「より多くの食料がいきわたると徐々にヒトの数は増え、新天地へと生息の範囲を広げる。だが、どんなイノベーションも、いずれ壁に突き当たる。現状のままでは解決できない新しい要求がでてきたり、ひどい環境汚染を引き起こしたり、予想外の問題が生じたりする。食料が足りなくなるという不安が生まれ、危機感が募る。繁栄の歯車の前方に手斧が待ち構えている状況だ。この、絶体絶命の危機にさらされ、自然のめぐみを活用する新たな方法が登場する。‥より多くの食料がもたらされ、文明は人口増加に対応できるようになるのだ。・・見かけは変わっても、いまもこのサイクルは続いている。」とのべている。

この繰り返しのなかでも、化石資源の利用は大きな転機となった。また、二〇世紀の科学技術文明の進展は局面を大きく動かしたといえる。

本書は、「二〇世紀後半はまさに、「人類大躍進」と呼ぶにふさわしい時期だ。自然界に手を加えて食料を得るスピードは勢いを増し、文明の軌道が大きく変わった。これまでとは桁違いの規模とスピードで歯車がダイナミックにまわりだした。ヒトはもはやありふれた種ではない。」とのべている。

この「二〇世紀」、化学肥料や化石燃料の使用、品種改良、農薬・殺虫剤の開発・使用、「緑の革命」、バイオテクノロジーによる遺伝子組み換えなどが結びついて食料の大増産がすすめられた。これによって「二〇世紀」にすすんだ「人口大爆発」にも対処できたというのである。

ただ、このような「人類大躍進」がもたらした「負の側面」は、現代の環境問題をはじめ、さまざまな問題になってあらわれているといわねばならない。

本書は、つぎのように結ばれる。

「人類が狩猟採集生活から農耕牧畜をする定住生活への移行を開始したのは一二〇〇〇年前。それから数千年かけて学び、文化を築き、移行はようやく完了しようとしている。人間は知恵を絞り工夫を凝らして自然と密接にかかわり合い、着実に繁栄の歯車を進め、農耕をする種として地球上で勢力を拡大してきた。いまわたしたちは農耕をする種から都市生活をする種に代わろうとしている。少数が食料をつくり、大多数の人々がそれを食べるという最新の取り組みは始まったばかりだ。どんな結果が待っているのかは、だれにもわからない。これからも破綻の危機と方向転換はきっと起きるだろう。そのたびに人間は独創的な方法で地球のめぐみをうまく活用するにちがいない。これまで積み重ねてきた創意工夫の成果とともに、生きる方法を学びつづけるだろう。」

 私たちは、このような視点をどのように評価したらよいのだろう。

 

(日経ビジネス人文庫 2021年4月刊)