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ブックガイド 古儀君男著『核のゴミ』

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古儀君男著『核のゴミ―「地層処分」は10万年の安全を保証できるか?!』

原子力発電をひとつのシステムと考えたとき、「トイレなきマンション」といわれる根本的な欠陥があるとされてきた。すなわち、原子力発電を運転したあとに残る使用済み核燃料や高レベルの放射性廃棄物について、その処分方法がいまなお確立していないのである。

日本では、原子力発電によって生み出される使用済み核燃料について、青森県六ケ所村の再処理施設で再利用できるプルトニウムやウランを取り出したあとに残る廃液をガラスに固めて地下深く埋める「地層処分」方式をとるとされてきた。この方法にしたがうとしても放射能が安全なレベルになるのに10万年の歳月を要するという。地盤の安定性を前提条件として、10万年もの間、どのように安全に保管していくのか、問題はあまりにも多い。

したがって、全国の原子力発電所を対象に最終処分場を作るといいながら、具体的な場所については決まらないまま、「地層処分」というアイデアだけがひとり歩きしてきた現実がある。

しかし、原子力発電を動かしていくためには、この問題について何らかの方向付けをしなければならないことから、経産省資源エネルギー庁は、2002年から全国の市町村を対象に処分地を求めてきたのだが、受け入れ自治体は決まらずに推移した。そこで、2010年には日本学術会議に対して「高レベル放射性廃棄物の処分に関する取り組み」、特に国民への説明や情報提供の仕方についての審議を依頼し、「回答」を求めてきた。また、2017年7月、「地層処分」について国民や地域の合意形成をはかるために「地層処分を行う場所を選ぶ際にどのような科学的特性を考慮する必要があるのか、それらは日本全国にどのように分布しているかを」示すものとして「科学的特性マップ」を公表し、各地で説明会を開いてきた。

このなかで、2020年10月、北海道の寿都町と神恵内村が核のゴミ処分場調査(文献調査)の受入れを表明したことから、この問題がにわかに注目されてきた。

本書は、このようななかで出版されたもので、そもそも「地層処分」とはどのようなアイデアなのか、日本のこれまでの取り組みはどのような経過をたどってきたのか、海外ではどのような取り組みがされているのかを丁寧に紹介しながら、複雑な断層や地質構造をもち、地震大国であり、火山の多い日本列島で、「「地層処分」は10万年の安全を保証できるか?!」と問いかけるものとなっている。本書の構成は、以下のようなものである。

第1章    地層処分とは

第2章    日本と海外の取り組み

第3章    地層処分についての日本学術会議の回答と提言

第4章    10万年の安全!?

第5章    日本の地質の特異性

第6章    「科学的特性マップ」を考える

第7章    日本で地層処分は可能か

本書を手にして、「地層処分」という、普段、あまり考えることのない問題について考えるよい機会になったが、あまりにも問題の多い原子力発電そのものをすみやかに廃止するという政治決断を行うことがいまや最優先されるべきだとの思いをあらためて強くしたというのが率直な読後感である。

 

(合同出版 2021年6月刊)