京都循環経済研究所 設立から3年
京都循環経済研究所は、2018年10月16日に設立されました。これでまる3年が経過したことになります。
この機会に、これまでの活動をふりかえり、これからの課題を整理することにします。
1 何をめざしてきたのか
京都循環経済研究所は、その設立にあたって、基本的な組織理念をまとめた「趣意書」を作成しています。実際に何ができるかわからない組織ではありましたが、かかげた理念はそれなりにしっかりしたものでした。その「趣意書」は次のようなものでした。
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京都循環経済研究所 趣意書
20世紀文明の「負の遺産」ともいうべき環境問題が顕在化するなかで迎えた21世紀の入口にあたり、多くの人が21世紀を「環境の世紀」にしなければならないと考えた。
しかしながら、地球温暖化、異常気象や自然災害の多発をはじめ、プラスチックによる海洋汚染など、あきらかに環境問題はより深刻になりつつある。
他方では、2015年12月には気候変動に関する国際交渉のなかで「パリ協定」が採択された。また、同年、国連は「持続可能な開発目標(SDGs)」を採択した。
これらは、21世紀を「環境の世紀」にするための希望を与えてくれたといえる。そして、消費者・市民のなかでも、事業者のなかでも、これらを手がかりにした取組みが開始されようとしている。
このようななかで、いまここに設立される「京都循環経済研究所」は、「循環経済」の発展を通じて、持続可能な社会の形成をめざすものである。
「循環経済」という用語には、「資源循環」という意味とともに、「地域循環」という意味をこめたいと考えている。
「資源循環」については、いうまでもなく、大量生産・大量消費文明への反省をふまえ、限りある資源を大切に利用し、無駄な廃棄を極力回避することにより、循環型社会の形成を推進しようとするものである。
同時に、地域のさまざまな資源を活用し、地域で「お金」が回り、地域が元気になる「地域循環」の可能性を探求することも目標にしている。
ここに設立される「京都循環経済研究所」が、消費者・市民、事業者、行政関係者が連携しながら、ともに学び、ともに考えあい、情報発信する場として、その役割を発揮できるように、みなさまのご理解・ご協力、積極的な参画をお願いしたい。
2018年10月16日
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ここにかかげた組織理念をもとに、どのような調査研究や情報発信をすすめるのかということを整理するために、「私の「循環経済論」――京都循環経済研究所の課題」と題するレポートをまとめ、創刊されたニュース「循環経済」紙面(1号―5号)に掲載しました。
このレポートの構成は以下のようなものでした。
1 『ゴミからの出発 リサイクル社会への道』
2 ごみの分別・リサイクル
3 「家庭系有害廃棄物」の回収・適正処理
4 ごみ有料化
5 レジ袋有料化
6 拡大生産者責任
7「循環型社会」にむかって
このレポートでのべている「リサイクルだけではごみは減らない」「リサイクルにはコストがかかる」「有害廃棄物の適正処理のシステム作りが独自の課題」「日本でも拡大生産者責任の考え方を定着させる必要がある」などの課題意識は基本的に現在もそのまま生きていると思います。
京都循環経済研究所の情報発信については、
1 ニュース「循環経済」の継続発行
・手配りを基本に「10日に1回」の発行をめざす
・ひとつの目標として100号まで発行を継続する
2 ホームページの活用
を基本とすることにしました。
会員組織づくりについては、とりあえず応援いただける個人の方にお願いすることから開始しました。
事務所については、蛍光管リサイクル協会、レイチェル・カーソン日本協会関西フォーラムとの共同事務所とすることを前提に、京都循環経済研究所が窓口になり、ヒロセビルと「3、4年をめどに」契約することになりました。
2 何が出来たのか
京都循環経済研究所の設立(2018年10月)から3年、この間、「まったなし」の気候危機のなかで「2050年カーボンニュートラル」をめざす取組みや、レジ袋有料化などプラスチック資源循環への取組み、SDGs(持続可能な開発目標)やエシカル消費をめざす取組みなどが注目されるようになりました。
また、京都のまち・経済は、インバウンド(外来者ラッシュ)の効果により「バブル」化するなかで、本来、京都のまち・経済はどうあるべきかという議論が必要とされていましたが、新型コロナ感染症の拡大にともない状況は一変し、観光・宿泊関連業、飲食業をはじめ、京都経済は大打撃をうけました。
コロナ感染症の拡大は、大学をはじめ教育分野でも大きな影響がでました。
緊急避難的にはじまった「オンライン」によるコミュニケーションが、いまではすっかり定着し、「ポスト・コロナ社会」でも「オンライン」は「対面型コミュニケーション」と併存することが見込まれています。
このような状況のもと、「循環経済」をテーマにした調査研究の課題は広がったのですが、コロナ禍のなか、残念ながら身動きが取れなくなってしまったのが現実でした。
このなかですすめられた京都循環経済研究所の3年間の活動をふりかえることにします。
<調査研究>
まず、調査研究についてです。
最初に、蛍光管リサイクル協会として行った調査研究を紹介します。
以下の2つの調査研究は、京都市ごみ減量推進会議の助成を受けて実施されたものです。
1 LEDのリサイクルの可能性を探る(2019年度)
2 あらためて電池について考える(2020年度)
調査研究の経過と結果についてはそれぞれ「事業報告書」を提出しています。また、「循環経済」紙面や蛍光管リサイクル協会のホームページで順次、情報を掲載してきました。
それぞれのテーマで「フォーラム」を開催するなど、情報共有に努めてきました。
電池については啓発用のパンフレット「あらためて電池について考えよう」を編集・発行しました。
電池についての調査研究については、2021年度
<写真はLEDフォーラムのようす(2019年11月)>
もリチウムイオン電池由来の発火事故のテーマで継続する必要があったのですが、コロナ対策との関係で、実施を見合わせることになりました。
京都循環経済研究所の設立後、最初の調査研究として独自に行ったものとして「使用済み生協組合員カードのリサイクルの可能性について」の調査研究があります。
クレジットカード等のICチップに微量ながら貴金属が使用されているのに着目し、使用済みのクレジットカード等を回収し、活かすことが出来ないかということで、NPO法人「Future Earth」と共同で、立命館生協の協力のもとにモデル実験をしてみたのです。
結果としては、生協組合員カードの仕様変更にともないICチップからの貴金属回収が期待されたようにはできないことがわかり、残念ながら、今後の課題とすることになりました。
社会実験型の調査研究にはなりませんでしたが、以下のようなテーマでの文献調査・情報収集型の調査研究を継続的に実施してきました。
・プラスチック問題
・SDGsを考える
・「3・11から10年」
・「2050年カーボンニュートラル」
・私の「現代環境論」(立命館大学講義「現代環境論」テキストと連動するものでした)
これらの調査研究の内容は「循環経済」の連載記事としてまとめられ、その後、研究所のホームページのコンテンツとして掲載され、広く情報提供されてきました。
また、これらの調査研究とも関連して、必要と思われる書籍情報を「循環経済」の<ブックガイド>記事として提供してきました。
<情報提供>
次に情報提供についてです。
京都循環経済研究所のニュース「循環経済」について、「手配り新聞」として10日に1回の発行を継続してきました。ひとつの目標としてきた100号まで発行継続するとの目標は達成目前になりました。<今回が99号、次号で100号>
この「循環経済」が情報提供のためのツールとして有効な働きをしてきたと評価できます。
ホームページの活用については、京都循環経済研究所のホームページに必要な情報を保存することにしてきました。また、蛍光管リサイクル協会のホームページとのリンクについても心がけてきました。
<会員組織>
規約上は団体・個人の会員組織を想定していましたが、実際にはご支援いただく個人の方から「賛助会費」をいただくという範囲にとどまっています。
<事務所運営>
事務所については、蛍光管リサイクル協会とレイチェル・カーソン日本協会関西フォーラムの共同事務所として運営されてきましたが、特別な問題は発生していません。
<年報の発行>
研究所の調査研究についてはニュース「循環経済」に順次掲載し、再整理したものを「年報」に収録してきました。「年報」は2回発行しました。その目次を紹介します。
「年報2020」 2020年4月
●京都循環経済研究所趣意書
●「持続可能な開発」と循環経済
●「蛍光管の適正処理」への道
●「くらしの中の化学物質」をテーマに
●「環境ホルモン」問題、その後
●京都循環経済研究所 2020年度の課題
「年報2021」 2021年5月
●私の「現代環境論」
●公開研究会「あらためて電池について考える」主催者報告
●「3・11」から10年
●SDGsを考える
●環境政策の課題
●京都循環経済研究所趣意書
研究所と事務所を同じくする蛍光管リサイクル協会、レイチェル・カーソン日本協会関西フォーラムの活動については、それぞれの事務局としての機能を担ってきました。
その概要を紹介します。
<蛍光管リサイクル協会>
蛍光管リサイクル協会については、自立した運営を定着させながら、京都市ごみ減量推進会議の助成をうけて調査研究に取り組むとともに、蛍光管の共同排出・回収は年2回実施してきました。
蛍光管の共同排出・回収の取組みについては、照明器具市場の主役が蛍光管からLEDに移っていく中で、そのシステムの見直しを行い、2022年度に向けて、新システムへの移行を準備してきました。
<レイチェル・カーソン日本協会関西フォーラム>
レイチェル・カーソン日本協会関西フォーラムの活動については、コロナ禍のもとでもその活動を継続できるように努めてきました。
この中で、『沈黙の春』60年を前に、『13歳からのレイチェル・カーソン』の出版企画が実現したことは大きな成果といえます。幸い、出版物としても好評を得ています。
また、緊急避難的にオンライン企画を試行しましたが、会員が各地に散在する会の特性からもオンライン企画が有効なものと評価され、コロナ後も活用していくことになりそうです。
3 これからの課題
研究所の活動は4年目にはいります。
環境問題の進展にともない、研究所が取りあげるべき調査研究・情報発信の課題は限りなく広がっているといえますが、どの課題を、どのように取りあげていくのか、十分に検討しながら、有効な成果につながるように努力することが求められることになります。
また、この間の取組みについて一定の集約を行うことも必要になっています。
<調査研究>
当面の調査研究の課題を以下のように設定します。
課題1 気候変動対策とエネルギーシフト
課題2 プラスチック問題と循環型社会形成
<情報発信>
ニュース「循環経済」は、研究所の情報発信ツールとして、従来どおり「手配り」を原則とし、A4・4ページの規格で発行を継続します。「10日に1回」の発行についても継続します。
ホームページの充実につとめます。最近は「循環経済」掲載記事の記録保存が中心になっていますが、ホームページのためのオリジナルな情報掲載についても検討していきます。
「年報2022」「循環経済ブックガイド」の発行を準備します。
<出版企画>
これまでの活動をまとめあげるために出版企画についても検討します。
<事務所運営>
事務所については、当面、これまで同様、蛍光管リサイクル協会、レイチェル・カーソン日本協会関西フォーラムとの共同事務所として運営していきます。
しかし、2022年度には、蛍光管リサイクル協会が、蛍光管の共同排出・回収システムを新システムに移行したうえで解散することを想定しています。
蛍光管リサイクル協会が解散になれば、いまのまま事務所を維持することは困難になりますので、それにともなう対応を準備していかねばなりません。
レイチェル・カーソン日本協会関西フォーラムの事務局としての役割はひきつづき求められています。