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2050年カーボンニュートラルの課題

カーボンニュートラル実現への課題

 

1 気候変動対策として世界の目標に

 

気候変動問題はいまや「まったなし」の状況にあり、用語の問題としても「気候危機」とか「気候崩壊」という用語が使われるようになっています。

山本良一著『気候危機』(岩波ブックレット)では、つぎのような説明がされました。

「今日の気候および環境が危機的であり、非常事態であるという認識の広がりから、メディアでは用語の変更を決めたところも出始めた。2019年5月、イギリスの『ガーディアン』紙はClimate Change(気候変動)をClimate Emergency(気候非常事態)、Climate Crisis(気候危機)、Climate Breakdown(気候崩壊)へ、Global Warming(地球温暖化)をGlobal Heating(地球過熱化)に変更している。なお、オックスフォード英語辞典は2019年の「今年の言葉」にClimate Emergencyを選んだ。」(p40)

 このようななかで、「2050年カーボンニュートラル」という目標が世界共通の目標になり、この目標にむかって取組みを加速することが求められるようになっています。

 「カーボンニュートラル」とは、化石燃料の燃焼など人為的な活動にともなう温室効果ガスの排出量と、森林吸収など自然が大気中から除去する量とが均衡する状態をいいます。「パリ協定」、「IPCC1.5℃レポート」では気温上昇を1.5℃で抑えるために2050年をめどに「カーボンニュートラル」を実現しなければならないとされています。

この目標を実現するためには、バックキャスティングの考え方に立って、現在の産業構造や社会経済システムを大きく転換していくことが必要であり、とりわけ、2030年までに「野心的な温室効果ガスの削減目標」を共有することが課題だとされています。

 今年のCOP26(気候変動枠組み条約締約国会議)は、11月にイギリスで開催されることになっていますが、「パリ協定」のスタートにあたり、各国がどのような目標を掲げるのか注目されています。とくにトランプ政権からバイデン政権に交代し、「パリ協定にアメリカがもどってきた」といわれるなかで、有効な取組みが開始されることが期待されています。

 

このようななかで、この間、主要国の取組みに比べ、立ち遅れが目立っていた日本の取組みも変わりつつあります。この流れが勢いを増し、本格的な取組みになっていくかどうか、注目したいところです。

昨年、安倍政権から菅政権に交代しました。菅総理は、10月26日に行われた所信表明演説で次のように「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。

「菅政権では、成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げて、グリーン社会の実現に最大限注力してまいります。我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではありません。積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要です。」

 また、この間、「もっと野心的な目標を持つべきだ」とされてきた温室効果ガスの削減目標についても、バイデン大統領をホストにした「気候サミット」で、2030年目標について、これまでの26%削減から46%削減に引き上げることを表明しました。

これを機に、日本政府の取組みがどのように変わるのか、局面が転換したといえるのか、まだわかりませんが、本格的な取組みが開始されることを期待したいところです。

 

菅総理は「カーボンニュートラル」宣言にあたり、所信表明演説において、次のような取組み方向を示していました。

「鍵となるのは、次世代型太陽電池、カーボンリサイクルをはじめとした、革新的なイノベーションです。実用化を見据えた研究開発を加速度的に促進します。規制改革などの政策を総動員し、グリーン投資の更なる普及を進めるとともに、脱炭素社会の実現に向けて、国と地方で検討を行う新たな場を創設するなど、総力を挙げて取り組みます。環境関連分野のデジタル化により、効率的、効果的にグリーン化を進めていきます。世界のグリーン産業を牽引し、経済と環境の好循環を作り出してまいります。省エネルギーを徹底し、再生可能エネルギーを最大限導入するとともに、安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立します。長年続けてきた石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換します。」

 これらの方向をふまえ、環境省、経済産業省などの動きが始まりました。そのなかの主要な動きを紹介します。

まず、地球温暖化対策法の改正です。5月26日に改正案が成立しましたが、この改正には3つのポイントがあります。

1 2050年までの脱炭素社会の実現を基本理念として明記

2 地方創生につながる再生可能エネルギー導入を促進する

3 企業の温室効果ガス排出量情報のオープンデータ化

この法律のもとですすめられる地球温暖化対策について平成28年5月策定の「地球温暖化対策計画」の見直し・検討が開始されました。

また、「パリ協定長期成長戦略」(令和元年6月閣議決定)についても見直しが開始されました。

経済産業省を中心に関係省庁が連携し、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の準備も進められました。この中では、14業種について課題が提示されています。

資源エネルギー庁の有識者会議では「第6次エネルギー基本計画」の策定作業がすすめられています。

これらの取組みによって、「カーボンニュートラル」戦略についてどこまでふみこんでいくのか、菅政権の本気度が問われることになります。

 

2 再生可能エネルギーを主力電源に

日本においても「2050年カーボンニュートラル」が政策目標になりました。この目標を実現するためには、さまざまな施策を総合的にすすめなければなりませんが、エネルギーシフト、つまり、温室効果ガスを排出するエネルギーから温室効果ガスを排出しないエネルギーに切り替えていくことが重点課題として求められることになります。これは簡単なことではありませんが、エネルギーシステムの根本的な転換を求め、「野心的な」取組みをすすめる必要があります。

 

雑誌『世界』の6月号の特集「気候変動とエネルギー」は、この問題を考えるうえで役に立つ情報提供をしていますが、第1論文「カーボンニュートラルへ 日本の課題」(高村ゆかり)は「2050年カーボンニュートラルは、「達成できる目標か」「実現の見込みがあるのか」とよく問われる。答えは明確で、残念ながら、現状の対策、今の社会の延長では到底この長期目標を達成することはできない」としながらも「こうした目標を掲げるのは、脱炭素社会の実現には社会と技術の大きな変革(イノベーション)が必要であり、それを可能にするには、目標実現のための課題を明確にし、政策の導入、民間の行動を促す長期的な政策の方向性が明確に示されることが必要だからだ」「現在のエネルギーシステムから脱炭素化したエネルギーシステムへの革新的な転換を要請する」と強い課題意識を述べています。

 

日本のエネルギー供給は依然として化石燃料に依存しているのです。再生可能エネルギーの占める割合は徐徐に拡大傾向にあるというものの、まだまだ少ないのが現実です。このような現状をふまえると、具体的な政策課題としては、「省エネ・効率改善の徹底」を前提にしながら「再生可能エネルギーの主力電源化」を軸に考えることが必要です。

 

再生可能エネルギーの利用は世界の潮流であり、コストも急速に下がっています。また、再生可能エネルギーは、地域分散型経済の軸になるものであり、地域住民とともにその可能性をくみ出す努力が必要だという基本認識も広がっています。

このようななかで、再生可能エネルギーの主力電源化のための課題について、飯田哲也・金子勝著『メガ・リスク時代の「日本再生」戦略』(筑摩選書 2020年9月刊)のなかの、飯田担当部分、第1章「不可逆的な大転換」を参考に考えることにします。

 

飯田は、再生可能エネルギーという場合、太陽光、風力、バイオマス、地熱、水力、波力、潮力などをあげることができるが、主力になるのは太陽光、風力だとします。この2つについては「膨大な資源量があり、技術学習効果によって今後も飛躍的に普及し、コストも下がっていく」、そして国際的にみると「今や太陽光と風力がもっとも安いエネルギー源になっている」というのです。また、太陽光や風力は、日照時間や風向きによって発電量が変わる「自然変動型電源」ですが、必要な電力量と発電量のギャップを柔軟に埋めることは可能になっており、これに蓄電池の開発・普及により、エネルギー市場は大転換を起こす可能性があるというのです。

 

太陽光発電は、日本においても、この10年、固定価格買取制度のもとで導入がすすんできましたが、問題点も浮かび上がってきました。

飯田によれば、太陽光発電については、立地の制約がなく、どこでも太陽光発電事業ができるということで、地域に根ざした再生可能エネルギー事業をひろげることができたのですが、他方で、メガソーラー事業者による乱開発がすすめられ、地域住民との間でトラブルになるケースが出てきたといいます。また、固定価格買取制度のもとで、買取価格を計画段階で決めてしまうという制度上の問題も出てきたというのです。この場合、市場のコスト低下の効果が反映されず、事業者のなかには法外な利益を得るケースがあるというのです。

 しかし、このような問題点があるからといって、太陽光発電の役割がなくなったわけではありません。「カーボンニュートラル」の政策目標のもとで、こんごのエネルギーシフトの主役として育てていく必要があるのです。

 

風力についても、飯田は、各国の取組みがすすんでいることを紹介します。なかでも、デンマークのばあい、住民密着のもとに小型風力開発からはじめ、その「技術学習効果」をいかしながら、風力発電大国になっていったとされます。これに対し、いきなり大型風車の開発からはじめた日本の風力発電開発は失敗し、結果として、日本は取り残されてしまったと指摘します。

飯田は、デンマークの成功の要因について、1、オープンな技術開発とそれを普及させる需要サイドからの牽引、2、政府による一貫した支援、3、小さな市場からスタートし、継続的な学習の蓄積、4、関係するさまざまな当事者間でのネットワークの形成とその好循環、という4点をあげていますが、日本のばあい、いずれも欠けてきた要素だといいます。

しかし、日本でも、太陽光発電とともに風力発電の潜在的可能性は大きいのであり、住民が主人公になる小規模分散型の再生可能エネルギー事業のネットワークをつくりあげるという展望のもとに、取り組みを広げる必要があるのです。

 

飯田の論稿は2020年9月以前のものです。これが刊行されたのと前後して、菅政権は「2050年カーボンニュートラル」宣言を行ったのです。そして、現在、この長期目標のもとに、さまざまな政策が準備されています。たとえば、洋上風力発電の可能性については日本のグリーン成長戦略のトップメニューとして示されています。つまり、これまでならできなかったことでも、こうした長期的な政策目標のもとで必要な人材や資金が投入され、技術開発がすすんでいくなかで、実現可能なものになってくると考えることができるのです。

 

飯田は、次のように「文明論的なエネルギーの大転換」について強調しています。

「再生可能エネルギーは安くて信頼できる発電方式で、しかもクリーンで純国産エネルギー。それに加えて、電力を安定的に供給できるエネルギー」なのです。これは文明論的なエネルギーの大転換と言ってもけっして大げさではありません。18世紀の産業革命は石炭と蒸気機関から始まり、その後20世紀は石油と電力の世紀となりました。つまり人類の近代文明は、化石燃料に支えられてきました。これがついに、ほぼ無限の太陽エネルギー文明へと急速に移行しつつあるのです。

 

このように、「2050年カーボンニュートラル」の目標にむかって再生可能エネルギーは重要な役割を担っていくものといえるでしょう。

 

3 二つの決断を

「2050年カーボンニュートラル」が日本の目標として掲げられ、菅政権のもとで一連の取組みが準備されていることはすでにのべたとおりです。

しかし、準備されている取り組み内容は、「パリ協定」やそれにもとづく世界的な流れからみて十分なものとはいえません。これから11月予定のCOP26(気候変動枠組み条約締約国会議)にむけて国内外での調整が行われていくことになりますが、日本が気候変動を防ぐためにより「野心的」な目標を掲げリーダーシップを発揮していくためには、二つの決断が必要だと思います。それは「脱石炭」と「脱原発」の決断をすることです。

まず「脱石炭」です。

日本の電源構成をみるとその多くが化石燃料に依存してきたことがわかります。最新のデータでも、新エネ等10.3%、石油等6.8%、LNG37.1%、水力7.8%、石炭31.8%、原子力6.2%になっています。

2011年、福島原発事故のあと、原子力発電がストップするなかで、新たに石炭火力発電所を多数建設していく方向が示されました。気候変動対策とは真逆の方向が示されたわけです。新たな石炭火力発電の建設計画の数は50に及ぶものでした。

この動きに対して、気候変動問題に取組んできた気候ネットワークなどNGO、市民団体が、石炭火力発電所建設予定地域で「気候変動につながる石炭火力反対」の声をあげてきました。その活動は、訴訟という形をとることもありました。また、最近では、ESG投資ということが強調される中で、株主総会での提案という形をとることもありました。そのなかで、これまでに17の建設計画を中止に追い込んできたといいます。

このような流れのなかで、「カーボンニュートラル」といえば、当然、エネルギー分野の脱炭素化が最優先課題であり、とりわけ「脱石炭」が世界の流れだということも世論化してきました。

気候変動対策をめぐる国際交渉の場でも「脱石炭」の課題は具体的な論点になっています。

たとえば、直近のG7(主要7カ国首脳会議)では「気候と環境」に関して「排出削減対策が講じられていない石炭火力発電への国際的な投資をすぐにとめなければならない」「政府による新規の国際的な直接支援は21年末までに終了」との意思表示を行っています。

また、今回のG7のホスト国であり、COP26の開催地となるイギリスでは「脱石炭」のプログラムが明確に示されています。朝日新聞(7月1日)によれば、「英政府は30日、国内の石炭火力発電の廃止時期を2024年9月末とし、当初計画から1年前倒しする」「廃止されるのは排出削減対策が施されていない石炭火力発電所。石炭は12年の電源構成の40%を占めていたが、風力発電などの再生可能エネルギーの利用を進め、昨年は1.8%まで減っていた」というのです。

COP26でも、このような流れをうけて「脱石炭」を軸に議論されることが予想されるのであり、日本の対応も問われることになるでしょう。

 

もう一つが「脱原発」ということです。

日本の原発は、福島原発事故のあと、全面的に運転がストップしました。そのことが石炭火力の新増設の動きを引き起こしたともいえます。

しかし、そのまま「脱原発」にむかうのではなく、将来に向けても重要な電源としての位置付けは変わらないものとしながら、条件のある原発については再稼働してきました。

現在、検討中の「第6次エネルギー基本計画」でも2030年の電源構成として、原発については現行の「20―22%」の目標を維持するとの見通しがされているようです。また、今回の「カーボンニュートラル」に関連するグリーン成長戦略のなかでも「原子力産業」が位置づけられています。電力事業者の広報では「原発は発電時にCO2をださないクリーンな電源」との宣伝もされるようになっています。

とはいえ、この間、原発については、「安全神話」は崩壊した、福島原発の事例からみても事故補償費用や事故収束・廃炉費用があまりにも大きくなっている、使用済み核燃料の処理の見通しがつかない、原発はコストが上昇し続けるのに対し再生可能エネルギーはコストが低下し続けている、原発がなくても電気は足りてる、避難計画がもてない原発は運転してはいけない、など、「脱原発」の根拠も明らかになっており、これから10年後、20年後まで原発を日本のエネルギーの担い手として考えることはできないという世論が形成されてきました。

このようななかで、「脱原発」の決断をすることによってこそ、これからは「省エネ・効率改善の徹底」を前提にしながら「再生可能エネルギーの主力電源化」を目標にするというエネルギーシフトの道が明確になってくる、といえるのではないでしょうか。

いま求められる気候変動対策では、2050年までに実質ゼロを達成する、そのために2030年までにどれだけ削減するか(日本政府の現在の目標は46%)ということが求められるのです。このようなロードマップを想定するのであれば、「脱石炭」と「脱原発」の課題は2030年までに実現するとの目標を掲げたいと思うのですが、いかがでしょうか。

 

4 確実に実現するために

気候変動対策をめぐっては、COP(気候変動枠組み条約締約国会議)の場でたびたび「化石賞」を受賞するなど、日本の取組みの遅れが常に話題になっていましたが、菅政権のもとで「2050年カーボンニュートラル」の宣言が行われ、ようやく国際交渉の場に位置を占めることができるようになったようです。この1年間で変わり始めた流れを定着させ、目標達成に向けて確かな道すじを切り開きたいものです。

そのためには、日本では、アメリカのトランプ政権が誕生してそれまでの政権がかかげてきた政策目標を全否定するようなことはないでしょうが、政権が交代しても「2050年カーボンニュートラル」という長期的な政策目標が持続されるように法的な拘束力をもたせることが必要です。

この点では、地球温暖化対策法の改正が行われ、「2050年までの脱炭素社会の実現」を基本理念として明記したことは、当然のこととはいえ、よかったといえます。

 

次に、この長期目標を達成するためには、これまでの取組みや現状から積み上げていく「フォアキャスティング」の考え方ではなく、目標から逆算して、いつまでに何をどれだけ行っていくかという「バックキャスティング」の考え方で目標達成までのプロセス(工程表)を作り上げる必要があります。その際、2030年目標をどのように設定するかということが極めて重要です。

日本がこれまでかかげてきた2030年目標は「2013年度比で26%削減」でしたが、これではとてもパリ協定の目標に到達しないと評価されていました。

今回、バイデン政権の下で行われた4月の「気候サミット」で「26%」を「46%」に引き上げたことは注目されています。さらに、COP26までに「46%」を「50%」に引き上げることが期待されています。

 

目標達成のための取組みは決して容易なものとはいえませんが、「省エネ・効率化」を前提に「再生可能エネルギーの主力電源化」を図ることを軸に組み立てていくべきでしょう。

再生可能エネルギーについては「お天気任せ」「風頼み」などの批判がされますが、国際的には加速度的に市場拡大・コスト低下がすすんでおり、日本のこの10年間の取組みの遅れが目立っています。

確かに再生可能エネルギーの主力である太陽光や風力は、日照時間や風向きによって発電量が変わる「自然変動型電源」ですが、そのことをふまえたうえで必要な需給調整を行っていく技術は存在しています。飯田哲也は『メガ・リスク時代の日本再生戦略』で、①気象予測、②大規模電源の調整、③需給調整電源の活用、④電力の移出入、⑤需要を動かす、⑥市場(マーケット)を使う、といった再生可能エネルギー需給調整の「道具」を挙げています。これに蓄電池の開発がさらに可能性をたかめていると指摘しています。

実用化までには時間がかかるようですが、洋上風力発電の可能性はとても大きく、「カーボンニュートラル」に連動するグリーン成長戦略に位置づけられています。

 

「カーボンニュートラル」の目標達成のためにはエネルギー分野の脱炭素化が求められます。

日本では、この間、温室効果ガスを大量に排出し続けてきた化石燃料による発電、とりわけ石炭火力発電に依存してきましたが、石炭火力発電についていつまでに中止・撤退するのかが問われることになります。当面、2030年目標を確実に達成するために避けて通れない問題というべきでしょう。

この秋、イギリスで開催されるCOP26では「脱石炭」が論点になるものと思われます。日本の具体的対応が求められるに違いありません。

 

「カーボンニュートラル」の目標達成のための政策手段としてあらためて注目されているのがカーボンプライシングです。カーボンプライシングとは、その名のとおり、二酸化炭素などの温室効果ガスに値段をつけることにより、排出削減を目指す政策手法です。

環境経済学では、環境問題は本来市場の中に位置づけられるべき自然環境の価値が外部化されたことにより生じるものであり、それを内部化するために環境汚染物質などに価格をつける政策手法が論じられてきたとされています。

これまでから、例えば「炭素税」のように、温室効果ガスに対してどのような手法で価格をつけ、だれが、どこで負担するのかをめぐって議論がされてきましたが、今回、環境省、経済産業省で有識者の検討の場が持たれ、あらためて議論の対象になっているのです。どんな結論になるか、注目したいところです。

 

「カーボンニュートラル」という目標を達成するためには、政府が基本的な方向づけをすることが何よりも重要ですが、自治体や企業、消費者・市民の動きと連携していくことが必要です。

この間、自治体においても2050年にむけて温室効果ガス排出実質ゼロ宣言が相次いで行われ、条例で長期目標を示し、目標達成に向けて取組みを計画化する事例が見られます。

例えば、京都市では菅総理の「カーボンニュートラル宣言」を前後して、条例に「2050年正味ゼロ」「2030年に2013年比40%削減」の目標を書き込み、その達成に向けて「京都市地球温暖化対策計画<2021-2030>」をまとめています。このような取り組みが広がることが期待されます。

企業でも「カーボンニュートラル」を目標に、SDGsの取組みや、グリーンな成長ビジョンの策定などの動きがみられるようになっています。