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ブックガイド 高木仁三郎著『原子力神話からの解放』

ブックガイド 高木仁三郎著『原子力神話からの解放』

 

著者は、市民の立場から冷静に原子力問題について語り続けた「市民科学者」である。

この本は、1999年9月の東海村JCOで起きた臨界事故をきっかけとし、2000年という時点で「原子力文明からの転換」を主張する著作物として執筆された。著者にとってはそれまでの原子力批判の集大成というべきものである。

私は、この本をたびたび手にしてきたが、「気候変動対策と原発」という問題に直面し、あらためて原子力問題について総合的な批判を行う必要があると思い、久しぶりに手にしたのであるが、2000年に書かれたものであることを注意すれば、実に学ぶべきことが多い本だと思った。

この本は、最初、光文社からカッパブックスとして出たものだが、その後、講談社+α文庫になっている。ただ、それも書店の店頭にはないかもしれない。

入手しにくい本かもしれないが、まだお読みでなければぜひ一読していただきたい。

 

本書の構成は次のようなものである。

第1章   原子力発電の本質と困難さ

第2章   「原子力は無限のエネルギー源」という神話

第3章   「原子力は石油危機を克服する」という神話

第4章   「原子力の平和利用」という神話

第5章   「原子力は安全」という神話

第6章   「原子力は安い電力を提供する」という神話

第7章   「原発は地域振興に寄与する」という神話

第8章   「原子力はクリーンなエネルギー」という神話

第9章   「核燃料はリサイクルできる」という神話

第10章 「日本の原子力技術は優秀」という神話

第11章 原子力問題の現在とこれから

 

第1章で、著者の基本的な問題意識について「原子力発電の基本的困難さ」として

・原子力が生命にとっては破壊的である膨大な放射性物質を作り出してしまう

・核分裂反応によって生じた膨大なエネルギーを、直接、電力に変える方法がなく、エネルギーを有効利用しているシステムではない

・巨大事故の可能性を否定できないもので、例をみない困難さを持った技術である

という点をあげている。

第2章から第10章まで「原子力神話」を順番にとりあげ、批判している。

全体を一読したうえで、興味のある部分をあらためてじっくり読むような読み方もよいかもしれない。たとえば、気候変動対策と原発という問題からすれば、第8章の「原子力はクリーンなエネルギー」の部分を読むというように。

さいごの第11章では、「原子力の老朽化症候群」「原子力産業の斜陽化症候群」「廃炉の時代の諸問題」「放射性廃棄物と余剰プルトニウム問題」が取り上げられている。いずれも原子力発電をめぐる超ホットな話題である。

 

「3・11」を経験した私たちは、本書にこめられた著者の問いにどのように答えたらよいのだろうか。                  (光文社カッパブックス 2000年8月)