あらためてプラスチック問題を考える
プラスチック資源循環促進法が2022年4月1日から施行されることになりました。
本紙では、この間、プラスチック問題に関する情報提供や問題提起につとめてきましたが、この機会に、プラスチック問題とは何か、どうすれば問題の解決ができるのかについて、あらためて情報を整理し、みなさんと一緒に考えることにします。
一 プラスチック問題とは
プラスチック問題は、気候変動問題とならび、現代の環境問題でもっとも注目されているテーマです。プラスチック問題という場合、どこに焦点をあてるのかによって取り上げ方はさまざまですが、とりあえず考えられる問題をあげてみます。
1 廃棄物問題のシンボルとして
プラスチックは、20世紀後半以降、私たちの暮らしや社会にはいりこみ、豊かさや便利さを実感させる、まさに20世紀文明を象徴するものでした。
ところが、いまや、自然に還ることのない、すなわち完全に分解されることがないという特性をもつプラスチックごみが、地上にも、海にも、あふれかえっている現実に直面しているというわけです。一般廃棄物の処理責任をもつ市町村では、これらのプラスチックごみを処理しきれないでいる現実があります。
2 行き場のなくなったプラスチックごみ
プラスチック製品やプラスチック容器包材はごみ減量・適正処理をめざしてリサイクルの重点対象品目とされてきましたが、実際には資源として有効なリサイクルができずにいます。また、国内では処理できないものを発展途上国などに輸出し、現地の環境汚染につながるものもありました。
この間、中国がプラスチックごみの受入れを規制したのを前後して、海外輸出が困難になりはじめました。有害廃棄物の越境規制に関するバーゼル条約でもプラスチックごみが規制対象に追加され、プラスチックごみの回収強化、国内処理体制づくりが急務になっています。
3 海洋汚染問題として
プラスチックの散乱ごみは、河川や湖に流れ込み、やがて海に流れこんでいます。その実態が海洋汚染問題として注目されるようになりました。
プラスチックごみによる海洋汚染問題は、従来から、環境NGOなどから指摘されてきた問題ですが、いまやこの問題は国内外の政治問題になっています。2016年1月の世界経済フォーラム(ダボス会議)で、「2050年までに海洋プラスチックごみの量が重量ベースで海の魚の量を上回る」との報告がされたのがきっかけになり、環境関連の国際会議での議論の焦点のひとつになっています。
4 野生生物への深刻な影響
プラスチックによる環境汚染の実態がくわしく報告されるなかで、野生生物への深刻な影響が注目されるようになりました。異常死した野生生物の体内に大量のプラスチックが蓄積している実態が相次ぎ報告されてきました。また、マイクロプラスチックの場合、食物連鎖を通じて影響が広がっているともいわれています。有害性が問題にされている添加剤(ビスフェノールA、フタル酸エステルなど)の影響についても心配されるようになっています。「環境ホルモン」という言葉もあらためて目にするようになりました。
5 プラスチック削減の取組み
このようななかで、プラスチック削減の取組みが国内外で進み始めたのです。
2017年に開催された国連環境計画(UNEP)の意思決定機関である国連環境総会では「海洋プラスチックごみおよびマイクロプラスチック」に関する決議が採択されました。
2018年6月、カナダで開催されたG7では「海洋プラスチック憲章」が「首脳コミュニケ」として採択されました。(米・日は署名せず)
日本政府は、2019年6月の「G20」での国際協議を前に、急きょ、「プラスチック資源循環戦略」の策定作業をすすめました。このなかで、プラスチック問題についての情報共有がすすんでいったといえます。
二 「プラスチック資源循環戦略」の策定
このようにしてまとめられ、2019年5月、閣議決定された「プラスチック資源循環戦略」では、そのねらいについて次のようにまとめています。
○近年、プラスチックほど、短期間で経済社会に浸透し、我々の生活に利便性と恩恵をもたらした素材はありません。また、プラスチックはその機能の高度化を通じて食品ロスやエネルギー効率の改善等に寄与し、例えば、我が国の産業界もその技術開発等に率先して取り組むなど、こうした社会的課題の解決に貢献してきました。
○一方で、金属等の他素材と比べて有効利用される割合は、我が国では一定の水準に達しているものの、世界全体では未だ低く、また、不適正な処理のため、世界全体で年間数百万トンを超える陸上から海洋へのプラスチックごみの流出があると推計され、このままでは2050年までに魚の重量を上回るプラスチックが海洋環境に流出することが予測されるなど、地球規模の環境汚染が懸念されています。
○こうした地球規模での資源・廃棄物制約や海洋プラスチック問題への対応は、SDGs(持続可能な開発のための2030アジェンダ)でも求められているところであり、世界全体の取組として、プラスチック廃棄物のリデュース、リユース、徹底回収、リサイクル、熱回収、適正処理等を行うためのプラスチック資源循環体制を早急に構築するとともに、海洋プラスチックごみによる汚染の防止を、実効的に進めることが必要です。(中略)
○本戦略の展開を通じて、国内でプラスチックを巡る資源・環境両面の課題を解決するとともに、日本モデルとして我が国の技術・イノベーション、環境インフラを世界全体に広げ、地球規模の資源・廃棄物制約と海洋プラスチック問題解決に貢献し、資源循環関連産業の発展を通じた経済成長・雇用創出など、新たな成長の源泉としていきます。
このような「プラスチック資源循環戦略」の提起をうけて、事業者、自治体、消費者・市民がそれぞれ何をなすべきかを明らかにしていくことが焦眉の課題だということができます。
「プラスチック資源循環戦略」は、「基本原則」として「3R+Renewable(持続可能な資源)」の考え方を提示しています。具体的には、循環型社会形成推進基本法に規定する原則をふまえ、
① ワンウエイの容器包装・製品をはじめ、回避可能なプラスチックの使用を合理化し、無駄に使われる資源を徹底的に減らす
② より持続可能性が高まることを前提に、プラスチック製容器包装・製品の原料を再生材や再生可能資源に切り替える
③ できる限り長期間、プラスチック製品を使用する
④ 使用後は、効果的・効率的なリサイクルシステムを通じて、持続可能な形で、徹底的に分別回収し、循環利用を図る
⑤ 可燃ごみ指定収集袋などにバイオマスプラスチックを使用する
などの方向性を提示しています。
また、海洋プラスチック対策として3Rの取組みや適正な廃棄物処理を前提に、「海洋プラスチックゼロエミッション」をめざすことにしています。
そのうえで、これらの取組みを世界に広め、アジア・太平洋・アフリカ等にオーダーメードで我が国のソフト・ハードの経験・技術・ノウハウをパッケージとして輸出することによって国際貢献をめざすとしています。
また、これらの取組みをすすめるのにあたっては、国民レベルの分別協力体制や優れた環境・リサイクル技術など我が国の強みを最大限生かし伸ばしていくとともに、国、地方自治体、国民、事業者、NGO等による関係主体の連携協働や、技術・システム・消費者のライフスタイルのイノベーションを推進し、幅広い資源循環関連産業の振興により、我が国経済の成長を実現していくとしています。
「プラスチック資源循環戦略戦略」は、「重点戦略」として、実効的な①資源循環、②海洋プラ対策、③国際展開、④基盤整備に関わる課題を提示しています。
以下、主要な戦略的課題としてあげられた事項を紹介します。
(1)プラスチック資源循環
① リデュース等の徹底
・ワンウエイプラスチックの使用削減(レジ袋有料化義務化等)
・石油由来プラスチック代替品開発・利用の促進
② 効果的・効率的で持続可能なリサイクル
・プラスチック資源の分かりやすく効果的な分別回収・リサイクル
・漁具等の陸域回収徹底
・連携協働と全体最適化による費用最小化・資源有効利用率の最大化
・アジア禁輸措置を受けた国内資源循環体制の構築
・イノベーション促進型の公正・最適なリサイクルシステム
③ 再生材・バイオプラスチックの利用促進
・利用ポテンシャル向上(技術革新・インフラ整備支援)
・需要喚起策(政府率先調達(グリーン購入)、利用インセンティブ措置等)
・循環利用のための化学物質含有情報の取扱い
・可燃ごみ指定袋などへのバイオマスプラスチック使用
・バイオプラ導入ロードマップ・静脈システム管理との一体導入
(2)海洋プラスチック対策
・ポイ捨て・不法投棄撲滅・適正処理
・マイクロプラスチック流出抑制対策(2020年までにスクラブ製品のマイクロビーズ削減徹底)
・海洋漂着物等の回収処理、代替イノベーションの推進
・海洋ごみ実態把握(モニタリング手法の高度化)
(3)国際展開
・途上国における実効性のある対策支援
・地球規模のモニタリング・研究ネットワークの構築
(4)基盤整備
・社会システム確立 ・資源循環関連産業の振興
・技術開発 ・調査研究
・連携協働 ・情報基盤
・海外展開基盤
「プラスチック資源循環戦略戦略」は、今後の戦略展開のための「マイルストーン」を設定しています。
<リデュース>
・2030年までにワンウエイプラスチックを累積25%排出抑制
<リユース>
・2025年までにリユース・リサイクル可能なデザインに
・2030年までに容器包装の6割をリサイクル・リユース
・2035年までに使用済プラスチックを100%有効利用
<再生利用・バイオマスプラスチック>
・2030年までに再生利用(再生素材の利用)を倍増
・2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入
これらの「プラスチック資源循環戦略」が実際にどれだけ有効性を発揮し、プラスチック資源循環にむけて具体的な動きをつくりだしていけるかどうか注目されるなかで準備されてきたのが「プラスチック資源循環促進法」なのです。
三 プラスチック資源循環促進法
プラスチック資源循環促進法は、1月14日の閣議決定をうけて、この4月から施行されることになりました。
この法律では、プラスチック製品の生産から廃棄まで、それぞれの段階ごとに当面の対策をとりまとめたものになっています。
本紙でもすでに法律の概要を紹介してきましたが、具体的には、
1 プラスチック使用製品設計指針と認定制度
2 特定プラスチック使用製品の使用の合理化
3 製造・販売事業者等による自主回収・再資源化
4 排出事業者による排出の抑制・再資源化等
5 市区町村によるプラスチック使用製品廃棄物の分別収集・再商品化
などの取組みがすすめられることになります。
法施行を前に、「プラスチック資源循環促進法」のための特別サイトが立ち上がりました。
https://plastic-circulation.env.go.jp/
この特別サイトに新しい情報が順次追加掲載されていくことになりますので、注意する必要があります。
とりあえずは、今回のプラスチック資源循環促進法がめざしている制度の概要を解説したパンフレット「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律について」(経済産業省・環境省 32ページ)が掲載されています。このパンフレットなどを活用して制度の概要をつかむための学習が必要でしょう。
さまざまな場で話題になる「特定プラスチック使用製品」は、以下のようなものです。これらの製品がどのように取り扱われていくのかについてはとくに注目したいものです。
フォーク、スプーン、テーブルナイフ、マドラー、ストロー、ヘアブラシ、くし、カミソリ、シャワー用キャップ、歯ブラシ、ハンガー、衣類用カバー
これから法施行まで事業者・市町村の動きが活発になります。新しい制度のもとで循環型社会の推進、循環経済の構築に向かって有効な取組みがすすむことを期待したいものです。