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ブックガイド ギスリ・パルソン著『図説 人新世―環境破壊と気候変動の人類史』

ブックガイド ギスリ・パルソン著『図説 人新世―環境破壊と気候変動の人類史

 

「人新世」という用語が、21世紀の環境問題を象徴するように使われ始め、急速に広まってきたようです。『人新世の「資本論」』の斎藤幸平は、「人新世」について「人間たちの活動の痕跡が、地球の表面を覆いつくした年代」のことだと説明しています。本書は、この「人新世」という用語を軸に「環境破壊と気候変動の人類史」を図説しようというものです。

本書の構成はつぎのようなものです。

1 はじめに:新たな時代

PART1 前奏曲

2 人新世をめぐる議論 3 ディープタイムの認識 4 初期の兆候と警告 5 火と「長い人新世」 6 消えゆく種の悲しい運命

PART2 人類が地球に及ぼす影響

7 絶滅と“エンドリング”の誕生 8 産業革命の時代へ 9 核の時代 10 湿地の干拓

11 プラスチック:出汁とスープと島 12 スーパヒート 13 氷河の最期

PART3 さまざまな現象

14 異常気象 15 火山の噴火 16 崩壊寸前の海 17 社会的不平等 18 北の人新世と南の人新世 19 第6の大量絶滅 20 無知と否定 21 大地と人間の一体性 

22 溶岩を固める試み

PART4 希望はあるのか?

23 失われたチャンス 24 地球のエンジニアリング 25 炭素固定と時間稼ぎ 26 抗議活動 27 ハウスキーピングとしての地政学 28 煙を吐く惑星

著者は、「はじめに」で本書によせる思いをつぎのように語っています。

「人新世(アントロポセン、Anthropocene)は、「人」を意味する「Anthropo」と、一般に地質年代の「世」を表す接尾語「cene」を組み合わせた語だ。」

「人新世という概念は、当初は単なる地質学の学術用語として、つまり新たな地質年代に呼び名をつけ分類するための手段として考案されたものだった。しかし、人新世はそうした枠に閉じ込められることを拒み、今や、自然史と社会史の垣根を崩すテーマとなっている。人類はすべてを左右する要因になっただけでなく、地質の、つまり地球そのものの一部になった。」

「人新世になってから起きた種の絶滅と、その結果としての多様性喪失は、いわゆる「プラネタリヘルス(地球の健康)」にとって重要な意味を持っている。2019年末から2020年にかけて、新型コロナウイルスが地球規模で拡散した。新型コロナウイルス感染症のパンデミックと、それが公衆衛生、海外旅行、経済にもたらした壊滅的な被害は、完全な自然災害ではなく、人間の活動が生み出した副産物と言えよう。」

「人新世という概念、そして現実により浮き彫りになった劇的な展開を思えば、人類と環境の関わりの歴史、未来に向けた展望、そして行動を起こす好機に思いをめぐらせずにはいられない。本書では、人新世と折り合いをつけ、環境と社会を損なう影響を緩和もしくは逆転させるための人類の試みを掘り下げていく。そのためには、希望と行動、とりわけあらゆるレベルでの有意義な団結に注力することが重要だ。この壮大で急を要する、今まさに取り組むべき試みが失敗に終われば、若き人新世の夜明けは、その終わりを――つまり人類の歴史の終焉をも告げることになるだろう。」

 

このような著者の意図がどこまで表現できているかどうか、本書を手にしていただき、吟味・評価していただけたらと思います。              (東京書籍 2021年刊)