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ブックガイド 末吉里花著『エシカル革命』

ブックガイド 末吉里花著『エシカル革命』

「エシカル」という用語を日本語訳するのはなかなかむつかしいのだが、本書では、「エシカル」とは、直訳すると「倫理的な」という意味だが、「人や社会、地球環境(人間以外の生き物も含む)、地域に配慮した考え方」と説明されている。著者は、この考え方が「これから始まる新たな時代を生きるために欠かせないものさし」だというのだ。そして、エシカルな生き方を選んでいくことは、自分自身を見つめなおすこと、生き方を問いことだともいうのだ。

エシカルということが、いつ、だれによっていわれはじめたのかはよく確認できないが、広く社会に知れ渡ることになったひとつのきっかけは、消費者庁のもとに設置された「倫理的消費」調査研究会(座長・山本良一)での検討、その結果報告(2017年4月)であったといえる。本書の著者も、この調査研究会の委員であった。「あなたの消費が世界の未来を変える」と呼びかける、この調査結果報告書をうけて、全国各地でエシカルに関する普及啓発活動がすすめられた。

ちょうどこの時期は国連がSDGs(持続可能な開発目標)を採択し、この考え方が日本にも紹介される時期であり、エシカルとSDGsの普及啓発が重なり合いながら展開されていったのである。

著者もこのなかでエシカルについての基礎的な知識の習得、幅広い分野での実践例を学ぶ講座活動や各地での講演活動にあたっている。このなかで、著書『はじめてのエシカル』(山川出版社)も出版している。

このようなエシカルについての普及啓発活動がはじまり、すでに7年あまり経過してきたのだが、どこまでエシカルの考え方が広まり、定着したのか、また、コロナパンデミックを経験したいま、こんごにむけての課題は何かが問われる時期を迎えている。

本書は、こういうなかで、各地の実践事例に触れてきた著者が、あらためて「エシカル」の考え方を論じ、活動の方向を示したものといえるのではないか。

本書は、「はじめに」につづいて、以下、5つの章で構成されている。

1章   「当たり前」の裏側には何があるの?

2章   「壁の向こう」で始まっている新しい動き

3章   変化を楽しみながら進むには

4章   エンゲージド・エシカルで行こう!

5章   エシカルにつながりながら生きる知恵

本書は、著者の普及啓発活動の現場で直面した問題をふまえて、実際に出された疑問にどうすればわかってもらえるのかという姿勢で、平易に、相手が納得してくれるような語り口で書かれているので、読みやすく、わかりやすいものになっている。

読み進みながら、そういえばこんなことはどう考えたらいいんだろうと、あらたな疑問がわきあがるとしても、もう少し先まで注意深く読み進めば、ああ、そういう風に考えればいいのか、と対話が深まるようだ。たとえば、「エンゲージド・エシカル」という用語について、著者は、英語のエンゲージメントは基本的に「深い関わり合いや関係性」を指すもので、エンゲージド・エシカルとは、より深く社会と関わる「行動するエシカル」や「社会参画するエシカル」と言えると説明し、社会とのかかわり合いの中で実践する一歩踏み込んだアクション、理想の世界や社会の実現を求めて声を上げてみることの重要性を強調している。

行動すれば、そこにはかならず気づきや学びがあり、行動した分だけ確実に自分自身にも社会にも何らかの変化が生まれる、その小さな変化が積み重なれば、一つのムーブメントになるのだという。これが著者のいう「エシカル革命」ということになるのだろう。

本書は、エシカルやSDGsに関心をもつならばぜひ一読したいものといえるのではないか。

 

(山川出版社、2021年12月)