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気候変動対策と原発

気候変動対策と原発

気候変動問題はいまや「待ったなし」の課題になっています。「気候危機」「気候崩壊」という用語も使われるようになっています。

このようななかで、気候変動対策の名のもとに原発を推進しようとする動きが強まっています。気候変動対策の基本は省エネの徹底と再生可能エネルギーの本格的活用でなければなりません。リスクが大きすぎる原発には依存しないとの決断がいまこそ求められているのではないでしょうか。

 

<気候変動問題の現在>

気候変動問題の現在についてはくりかえし紹介しているとおり、「気候変動の科学」の分野ではIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が第6次評価報告書を準備しています。伝えられるところでは、昨年、第1作業部会報告が出されていましたが、2月末に第2作業部会報告、近日中に第3作業部会報告が公表され、秋には統合報告書にまとめられる予定です。これらの報告は、これまでの報告に比べさらに踏み込んだものになっており、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことは疑う余地がない」「向こう数十年の間に二酸化炭素及びその他の温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、21世紀中に、地球温暖化は1.5℃及び2℃を超える」と警告するものになっています。

他方、国際交渉の分野では、「パリ協定」は実施段階にはいり、各国により野心的な取組みを求めています。昨年11月、イギリスのグラスゴーで開催されたCOP26では「1.5℃」を事実上世界の共通目標とし、削減目標の見直しをよびかけ、排出削減策のない石炭火力については段階的削減を求めるなど、いわゆる「グラスゴー気候合意」に達しています。

このようななかで、気候危機打開のためには、IPCC第6次報告書と「グラスゴー気候合意」を正面からうけとめることが必要になっているのです。なかでも具体的な取組みが求められるのが本格的なエネルギー政策の転換です。すなわち、省エネ・効率化を前提に、再生可能エネルギーの本格的活用にむかうことです。同時に重要なのは、そのなかで脱石炭・脱原発の決断が求められることです。

 

<日本もカーボンニュートラルを目標に>

 このようななかで日本政府の取組みも「2050年カーボンニュートラル」を目標にしたものになりました。

2020年10月26日、菅総理(当時)は所信表明演説で「2050年カーボニュートラル」「脱炭素社会の実現」を宣言しました。これをうけて環境省の「脱炭素ポータル」に示されるような一連の取組みがすすめられました。

CO2の削減目標も2013年度比26%削減から46%削減へと引き上げられました。

具体的な取組みとしては、地球温暖化対策推進法の改正とそれをうけた具体定取組みの検討、カーボンニュートラルにともなう14分野のグリーン成長戦略の提示、「第6次エネルギー計画」の取りまとめなどが相次ぎました。

菅内閣に代わった岸田内閣においても、これらの考え方や取組みは継承されています。

気候変動対策の名のもとに原発維持・推進

このような動きのなかで、気になることは、日本の政府が気候変動対策をすすめるというものの、もっぱら「経済成長」戦略として論じられていることです。そして、この議論のなかで、原発の維持・推進の姿勢がみられることです。

たとえば、カーボンニュートラルにともなう14分野のグリーン成長戦略が示されましたが、洋上風力産業、燃料アンモニア産業などとあわせて原子力産業がその中に組み込まれています。

 

カーボンニュートラルにともなうグリーン成長戦略(2020年12月)

洋上風力産業/燃料アンモニア産業/水素産業/原子力産業/自動車・蓄電池産業/半導体・情報通信産業/船舶産業/物流・人流・土木インフラ産業/食料・農林水産業/航空機産業/カーボンリサイクル産業/住宅・建築物産業・次世代太陽光産業/資源循環関連産業/ライフスタイル関連産業

 

また、「第6次エネルギー計画」でも、2030年度の電源構成目標について再生可能エネルギー36-38%(従来の目標では22-24%)、火力41%(同56%)とされましたが、原子力については20-22%で据え置かれました。この計画のとりまとめにあたっての有識者会議のなかでも、現在の原発の稼働状況からみてとても現実的なものでないとの批判的意見が示されていたとのことです。実際に現在の電源構成からすると原発は6―7%レベルであり、もしも20-22%の目標を達成するためには40年以上を経過した老朽原発をふくめて現有の原発をフル稼働しなければならなくなるものです。

 

<電力事業界でも「CO2を出さない原発」推進キャンペーン>

このような政府の動きのもとで、電力事業界でも原発推進の動きが強まっています。

 

「環境にやさしいエネルギー」といえば、何を思い浮かべますか。

 発電時にCO2を出さないのは、「再生可能エネルギー」と「原子力」です。

 

このようなキャッチコピーを目にしませんか。電気事業連合会の広報で使われているものです。これにつづく説明文はつぎのようなものです。

 「百年に一度の異常気象。そんな言葉を、毎年聞いている気がしませんか。地球温暖化の原因となるCO2を減らすことは、喫緊の課題になっています。地球温暖化を抑制し、私たちの日常を守るためには、発電時にCO2を出さない再生可能エネルギーや原子力をバランスよく組み合わせることが必要です。電気と地球環境のこと、あなたも考えてみませんか。」

(2022年3月26日付け「京都新聞」掲載の電気事業連合会の広告記事から)

 すなわち、気候変動対策として「再生可能エネルギー」と「原子力」を「発電時にCO2を出さない」ということで同等に評価し、これからも原発推進をはかるという姿勢が読み取れるものです。

 「地球温暖化対策に原発を」との議論は、これまでもたびたびされてきたものですが、リスクが大きすぎる原発に依存するようなことはあってはならないことです。気候変動対策の基本は省エネの徹底と再生可能エネルギーの本格的活用でなければなりません。

 

<原発はリスクが大きすぎる>

原発はあまりにリスクが大きすぎるものです。「発電時にCO2を出さない」という「メリットを求めることで、とりかえしのつかない巨大事故が起きるリスクに直面することなど、そのリスクを考慮すると、「脱原発」に向かうべきものです。

原発のリスクについては、様々な場で、様々な形で論じられていることですので、ここでは細かなことをのべることはさけますが、主な論点を列挙してみます。

●原発には平常運転時にも思いがけないことから「とりかえしのつかない巨大事故」が起きるリスクがある

●日本の原発は老朽化がすすんでおり、老朽原発を運転することにより事故につながるリスクが大きくなる

●地震や火山の噴火など自然災害の多い日本では、自然災害に連動して原発が事故を引き起こすリスクが大きい

●福島原発の事例からみても事故補償費用や事故収束・廃炉費用は巨額なものになる

●使用済み核燃料の処理の見通しがつかない

●原発は安全対策、バックエンド費用の増大により、コストが上昇し続ける

●避難計画がもてない原発は運転してはいけない

これらに加えて、原発は戦争・武力行使の際の標的になることがあるということを、今回、ロシアのウクライナへの軍事侵攻という事態を通じて学ぶことになりました。

ウクライナは、チェルノブイリ原発をふくめ、ヨーロッパのなかでも有数の「原発大国」です。軍事侵攻がはじまり、チェルノブイリ原発がロシア軍の支配下におかれたというニュースを聞いて驚かされました。それ以外の原発も標的にされました。まさに原発が稼働中の地域で戦争が行われているという現実は、実に恐るべきことです。

 このような事態を目の当たりにするとき、日本列島全体に原発が散在するわが国においても、絶対にあってはいけないことですが、原発がテロや戦争の標的になるリスクを想定しなければならないのです。

あまりにもリスクが大きい原発は、いわば「禁じ手」だという認識を持ち、気候変動対策やエネルギー政策を論ずる際、「原子力発電はいらない」との決断をするべきです。この決断があってこそ、本格的なエネルギーシフトが展開するのです。

 

<気候変動対策の基本は省エネの徹底と再生可能エネルギー>

気候変動対策の基本は、何といっても省エネの徹底と再生可能エネルギーの本格的な利用です。「脱原発」の決断をすることによって、このことが促進されるというべきなのです。逆に原発を維持・推進するならば、これがブレーキになってしまうのです。

省エネは、かつて日本のお家芸ともいわれたことです。あらためて省エネのために努力を行うべきです。一人一人の心がけということももちろん大事なのですが、あらゆる場において、あらゆる製品の設計段階から製造、流通、販売、使用、廃棄まで、社会経済システムとして省エネを徹底していくことが必要です。

たとえば、新築住宅については省エネ基準を徹底し、CO2を出さない住宅(ゼロ住宅)にしなければならないということを政策目標にすることは、その気になればできることです。

このようななかでエネルギーの使用総量を抑制することが可能になります。

他方で、再生可能エネルギーの本格的活用への取組みをすすめるべきです。再生可能エネルギーといえば、太陽光、太陽熱、風力、バイオマス、小水力、地熱など、さまざまな可能性があります。この間、再生可能エネルギー普及の取組がすすみ、「主力電源」として位置づけようとの動きも出てきました。

再生可能エネルギーをめぐっては、外部資本による大型開発によって自然環境が破壊される恐れがあるということも問題になっています。

このようななかで、再生可能エネルギーを活かす場合の視点として

●地域の住民主体の取組みか

●地域の資源を活かした取組みか

●地域経済の活性化につながる取組みか

ということが強調されるようになっています。

 また、最近、好天に恵まれ、太陽光発電の出力が高まる中で、全体の電力需給バランスを守るために、その出力を制御するということが報じられましたが、前向きな解決を望みたいことです。

 いずれにしても、「脱石炭」「脱原発」の政治的な決断があってこそ、省エネの徹底、再生可能エネルギーの本格的活用が前進するということを強調したいのです。

 

<脱炭素社会へ確かな道すじを>

気候変動対策はいよいよ急務になっています。そのためには、昨年秋のCOP26で確認された「グラスゴー気候合意」を正面からうけとめることが必要です。気温上昇は「1.5℃未満に」を共通目標に、「2050年カーボンニュートラル」をめざして2030年の削減目標をどこまで野心的なものにするのかが問われています。

このようななかで、産業構造の転換、社会経済システムの転換、資金の流れの転換など、脱炭素社会への確かな道すじを明確に指し示すことが必要です。そのなかで、脱石炭・脱原発の決断をもとにした本格的なエネルギーシフトをすすめていくことが求められているのです。