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ブックガイド 堀内都喜子著『フィンランド 幸せのメソッド』

ブックガイド 堀内都喜子著『フィンランド 幸せのメソッド』

「フィンランドがSDGs達成度世界1位」といわれて「そーか、そーだね」と思っていたとき、たまたま書店の店頭に並んでいたこの本を手にし、とても面白く読むことができた。

 「まえがき」で、2019年12月にフィンランドでサンナ・マリンという34歳の女性首相が誕生したことが紹介される。これだけでも日本の現実を考えると驚きだが、さらに、この女性の生い立ちや経歴を聞き、驚き以上のものを感じることになる。

 サンナ・マリンは「1985年に首都ヘルシンキで生まれ、幼い頃に父親のアルコール問題で両親が離婚。その後、・・母は同性のパートナーと一緒になり、地方都市タンペレ近郊の公営賃貸住宅に3人で移った。マリンはいわゆる「レインボー・ファミリー」(子どもがいる同性カップル)の出身だ」というのである。店のレジ係として働いたり、時には失業手当を受けて生活しながら、地元のタンペレ大学に進学したのだという。フィンランドでは、教育は大学院まで無料であり、学生には国から支給される生活費や家賃の手当、さらには国の学生ローンもあるので、どんな家庭であっても進学することができるという。このサポートシステムがマリンの進学を可能にしたのである。

マリンは、大学に入学したあと社会民主党青少年部に所属し、政治活動に参加。次第に頭角をあらわし、2012年には市議会議員になり、すぐに市議会副議長。2015年には国会議員に当選。2019年には党の第一副党首として、急病に倒れた党首に代わって選挙戦を率いて第一党になり、その年の12月に首相になったのだという。

 マリンは、プライベートでも2018年1月に長年のパートナーとの間に娘が生まれ、半年間の産休と育休を取得。2020年8月に正式に結婚に至る。

 フィンランドではこのようなマリンの生い立ちや経歴は決して珍しいものではなく、むしろ連立政権を率いる五党のリーダーが全員女性であったことの方が目を引いたという。これは、日本では考えられないことである。

 フィンランドでも、はじめから今のような状況であったわけではなく、100年がかりで「男女共に働き、稼ぎ手となれる環境を整えることで、フィンランドは少しずつ発展を遂げてきた。課題が生じるたびに、それを解決するために様々な制度を生み出し、女性の就業率を上げることに成功していった。人口が少ないからこそ、一人ひとりが健康で、能力を発揮して働ける生産効率のいい社会となるために、福祉に力を入れて進化してきた。天然資源の少ない国では人材が一番の資源だと考え、教育が発展してきた。そして、今度は20年、30年、いや100年後の未来を見据えて多くの改革が行われようとしている」のだという。

 なるほど、このようなことだから「SDGs達成度世界1位」にとどまらず5年連続「幸福度世界一位」、ヘルシンキでは「ワークライフバランス世界一位」「ジェンダーギャップ指数第2位」という評価を受けるのだろう。

 ポスト資本主義論のなかでも、フィンランドをはじめ北欧の福祉社会が未来社会のモデルにあげられることも少なくない。このようなフィンランドの現実から何を学べばよいのだろうか。日本の現実と比べた時、あまりの違いにたじろいでしまいそうだが、フィンランドでも100年がかりで現在をつくってきたのだという。

 

 いまからでも遅くはない。「国家百年の計」として、次の時代を担う人材への投資を最優先することからはじめてはどうだろうか。           (集英社新書 2022年5月刊)