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私の「現代環境論」第2部(2022年9月改訂版)

私の「現代環境論」(2022年9月改訂版)

原  強

<第2部>

9 「持続可能な開発」概念の形成とSDGs

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の前提となる「持続可能な開発」(Sustainable Development)という概念は、1987年にまとめられた「環境と開発に関する世界委員会」の報告書で示されたものです。

この委員会は、1980年代になって、地球温暖化、フロンガスによるオゾン層の破壊、酸性雨、海洋・湖沼汚染、熱帯林の減少、砂漠化の進行、野生生物の減少、有害廃棄物の越境移動、途上国の公害問題などをめぐって情報の共有、問題解決のための国際的な共同の取組みの検討がされるなかで、国連決議のもとに設置された特別な会合です。委員長がノルウエーのブルントラント首相であったことから、ブルントラント委員会ともいわれています。

3年余の活動の成果をまとめた報告書「Our Common Future」がまとめられました。「持続可能な開発」という概念はこの報告書のキー概念として示されたのです。

報告書によれば、「持続的な開発とは、将来の世代の欲求を充たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発をいう」と定義されています。

「持続可能な開発」という概念は、1992年、リオデジャネイロで開催された「地球サミット」(国連環境開発会議)に至るまで、各地で、さまざまなテーマで開催された環境問題の国際会議のベースになるものでした。そして、「地球サミット」は、この概念を「環境と開発に関するリオ宣言」「アジェンダ21」「気候変動枠組条約」「生物多様性条約」などの環境政策に具体化する機会になりました。日本でも、これ以来、「持続可能な社会」という目標が掲げられ、「低炭素型社会」「循環型社会」「自然共生型社会」など分野別の目標をかかげながら、さまざまな取組みがすすめられてきました。

SDGsは、この「持続可能な開発」という概念を前提に、2015年9月に国連が採択したものです。SDGsは、発展途上国だけでなく先進国もふくめて2030年にむかって国際社会が直面する課題を解決するための目標として、「17のゴール」と「169のターゲット」を示しているものです。

SDGsは、採択から6年が経過し、SDGsとはどんなものかという紹介の段階から、SDGsの考え方や目標について、具体的に何から始め、どのように実践していくべきかという段階に来ています。

 

 SDGsといえば、カラフルなロゴやアイコン、カラーホイルをイメージする方が多いと思いますが、もとは「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」と題する30数ページに及ぶ長い国連文書のなかで示された「17のゴール」と「169のターゲット」なのです。手元に「2030アジェンダ」の外務省仮訳があります。これをもとに文書全体の構成について説明をすることにします。

まず「前文」があります。ここで「このアジェンダは、人間、地球および繁栄のための行動計画である」とし、「我々は、世界を持続的かつ強靭(レジリエント)な道筋に移行させるために緊急に必要な、大胆かつ変革的な手段をとることに決意している。我々はこの共同の旅路に乗り出すにあたり、誰一人取り残さないことを誓う」と宣言しています。この「誰一人取り残さない」というのがキーワードです。そのうえで「17のゴール」と「169のターゲット」について「これらの目標及びターゲットは、統合され不可分のものであり、持続可能な開発の三側面、すなわち経済、社会及び環境の三側面を調和させるものである」としています。

次に「宣言」の部分があります。ここで「取り組むべき課題」「目指すべき世界像」「共有する原則と約束」「新アジェンダの枠組み」「行動のよびかけ」などが示されます。

「宣言」の最後の「結語」には「人類と地球の未来は我々の手の中にある。そしてまた、それは未来の世代にたいまつを受け渡す今日の若い世代の手の中にもある」という印象深いフレーズがでてきます。

このあとに「17のゴール」と「169のターゲット」が提示されているのです。そのうえでSDGsの「実施手段」「フォローアップとレビュー」について述べられています。

この「2030アジェンダ」が掲げるSDGsの「17のゴール」はつぎのようなものでした。

目標1 あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる

目標2 飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する

目標3 あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する

目標4 すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する

目標5 ジェンダー平等を達成し、すべての女性および女児の能力強化を行う

目標6 すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する

目標7 すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する

目標8 包摂的かつ持続可能な経済成長およびすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する

目標9 強靭(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る

目標10 各国内および各国間の不平等を是正する 

目標11 包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市および人間居住を実現する

目標12 持続可能な生産消費形態を確保する

目標13 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる

目標14 持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する

目標15 陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復および生物多様性の損失を阻止する

目標16 持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する

目標17 持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する

 

このような国連文書を直訳したものでは、その重要性は理解できてもなかなかなじみにくいものとうけとめられたのが実際だったように思います。

この「なじみにくさ」を解消するために工夫・開発されたのが、いま私たちが見ることのできるカラフルなロゴ、アイコン、カラーホイルなのです。

「17のゴール」もつぎのようなキャッチフレーズのように示されることになりました。

 

1 貧困をなくそう 2 飢餓をゼロに 3 すべての人に健康と福祉を 

4 質の高い教育をみんなに 5 ジェンダー平等を実現しよう 

6 安全な水とトイレを世界中に 7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに 

8 働きがいも経済成長も 9 産業と技術革新の基盤をつくろう 

10 人や国の不平等をなくそう 11 住み続けられるまちづくりを 

12 つくる責任 つかう責任 13 気候変動に具体的な対策を 

14 海の豊かさを守ろう 15 陸の豊かさも守ろう 

16 平和と公正をすべての人に 17 パートナーシップで目標を達成しよう

10 環境問題と企業

(企業が評価される時代)

企業の不祥事があいついでいます。なかには企業の存亡にかかわる重大リスクになるような事案もあります。このような不祥事の際には「第三者評価」ということがいつも問題にされるようになりました。まさに企業が社会的に評価される時代なのです。

このなかで、環境問題への対応も企業評価の基準になっています。

(環境経営を課題に)

 企業活動の根幹に「環境」を位置づける「環境経営」の重要性が国際的に強調されるようになったのは、1984年、インドのボパールで有毒ガスが排出されたことで住民の多数が被害をうけた事故や、1989年、アラスカ沖でタンカーが原油を流出させた事故などがきっかけであったといわれています。時代はまさに地球環境問題が焦点になり、Sustainable Developmentをキー概念にしてリオデジャネイロの「地球サミット」(1992年)に向かおうとする時期でした。「環境経営」を志向する企業関係者が企業活動の指針として環境監査や環境管理の課題をあげ、原油を流出させたタンカーの「ヴァルディーズ」という名前をもとに「ヴァルディーズ原則」という基準をとりまとめるという動きがでてきたのです。

 このような動きをうけて、「地球サミット」に集まった企業関係者のなかで、ISO(国際標準化機構)のもとで環境経営のスタンダードになる「環境マネジメントシステム」の規格をとりまとめることがのぞましいという認識が共有され、ISO14001という規格が作られたのです。

 ISO14001では、企業が環境マネジメントシステムを構築する際の手順等が規格されており、企業の理念、事業内容等をふまえた「環境方針」にもとづく「計画」を定め、

 PLAN-DO-CHCK-ACT

のマネジメントサイクルにより、環境マネジメントシステムの継続的改善をめざすことにしています。

1996年に規格が発行され、日本でも取組みが開始され、2000年代には多くの企業が環境マネジメントシステムの構築に取組むようになりました。

 このような取組みを中小企業などでも取り組めるようにということで、京都発の簡略版の環境マネジメントシステム「KES」の認証制度もスタートしました。 

このような取組み内容や成果を関係者に伝え、理解・共感をえられるように、「環境報告書」を編集し、環境コミュニケーションのツールとして活用する企業が目立つようになりました。

また、環境配慮型の製品・サービスを普及し、市場のグリーン化をすすめるためのグリーン購入の活動が推奨されるようになりました。

企業は、グリーン購入法のもとで「購入の必要性を十分に考慮し、品質や価格だけでなく環境のことを考え、環境負荷ができるだけ小さい製品やサービスを、環境負荷の低減に努める事業者から優先して購入すること」(グリーン購入ネットワーク)を推進するようになったのです。

 第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)で採択された「京都議定書」が2005年2月に発効したことも追い風になり、環境経営の課題が推進されていったのです。

(環境経営からCSR経営へ)

 環境経営を推進するなかで、企業にとっては「環境」のことを重視しながらも、企業理念から求められるさまざまな社会的課題についても自らのものにしなければならないということから、CSR経営を推進する企業が出始めました。

CSR(Corporate Social Responsibility)とは、企業の社会的責任のことをいい、企業も社会の一員として社会のルールを守り、社会に貢献する責任があると考え、社会との良好な関係を保ちながら活動することで、企業自身の長期的な発展につながるとする考え方や行動のことをいいます。

このようなCSR活動を推進するCSR経営のなかに環境経営の課題も組み込まれるようになりました。

 CSR経営の課題としては、環境経営の枠組みを発展させ、つぎのような内容を柱に組み立てられていきました。

・CSRマネジメントシステム(ISO2600)

・先行していた「環境報告書」を発展させたCSRレポートの発行

・ステークホルダー(企業をとりまく利害関係者)との対話

 しかしながら、多くの企業でCSR経営が推進されていった時期は、実はリーマン・ショック、さらに「3・11」(東日本大震災)によってダメージをうけるなかで、いかに事業を継続し、立ち直っていくかという、当面の緊急事態をクリアしなければならない時期でもあり、CSRの取組みが後景に退き、見えなくなったのでは、という指摘が行われることもありました。

そのようななかでも、きびしい事業経営環境におかれているときこそ、企業の理念を明確にし、企業目標や企業価値を共有するための活動が必要なのだという企業の粘り強い取り組みがありました。

(企業活動とSDGs)

 2015年、環境問題は大きなターニングポイントをむかえました。第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)が「京都議定書」につづく新たな指針として「パリ協定」を採択し、他方で、国連持続可能な開発サミットがSustainable Development Goals(持続可能な開発目標)を採択したのです。これによって企業の取組みも新しい局面を迎えることになったのです。

 SDGsは、発展途上国だけでなく先進国もふくめて2030年にむかって国際社会が直面する課題を解決するための目標として、17のゴールと169のターゲットを示しています。その根幹にある「持続可能な開発」という考え方は「将来世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」を意味するものとされています。

これまでのCSR活動では、目標の設定が企業理念等をふまえ自主的に設定することがもとめられていたのに対し、SDGsは国連が採択した目標であり、CSR活動の目標を客観化するという点で大変有効なものととらえられ、多くのCSR推進企業で歓迎されたのです。従来のCSR活動(経営)の目標をSDGsで「上書き」するように取り組みが広がっているといってよいのでしょう。

このような動きと前後して企業の投資の在り方についても見直しが求められるようになり、ESG投資<環境・社会・企業統治という非財務項目を投資分析や意思決定に反映させる投資>も視野にいれた議論がはじまっています。

11 環境問題と自治体

(日本国憲法と地方自治体)

そもそも「地方自治体とは」と考える機会があまりないのではないでしょうか。この機会に、日本国憲法のもとでの地方自治体の位置づけに関わる関連条項を見直しておいてください。

日本国憲法92条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。

同93条① 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。

同93条② 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。 

同94条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

同95条 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。

(環境問題と地方自治体)

環境問題と地方自治体との関係についていえば、地方自治体は、

・地域レベルの環境政策の主体として

・住民要求にこたえる各種事業の主体として

・住民にとって身近な「協働」のパートナーとして

とても重要な役割をもっています。

(条例の制定・運用)

地方自治体は、国が定めた法律のもとで与えられる役割や責務をさまざまな施策を通じて実現していくわけですが、より具体的な根拠をもつ各種条例を独自に定めています。

環境分野でも、国の環境基本法に対応する環境基本条例が制定され、そのもとで審議会が設置され、環境基本計画の策定・運用が行われています。

また、地方自治体の置かれた状況に応じて「河川をまもる条例」「森林を守る条例」「景観を守る条例」など独自の条例を制定する場合もあります。

「京都議定書」を採択した地の京都府、京都市では「地球温暖化対策条例」のもとにCO2削減計画を掲げ、系統的な温暖化対策がすすめられてきました。このような取組みがあってこそ、「パリ協定」をうけた新たな目標に向かっての取組みも可能になったといえます。

(パートナーシップ組織)

環境分野の施策の推進のためには住民の協力が不可欠です。したがって、住民(住民組織)との連携を密にし、施策の実効性を高めるために、行政と住民(住民組織)とのパートナーシップ組織を育てていくことがとても重要です。ときには事業者組織もふくめたパートナーシップ組織も必要になってきます。より現場に近いところで課題やニーズを見つけ、その実現のために「協働」の取組みをすすめていくことが重要なのです。

たとえば、現在、どの地方自治体でもレジ袋削減などの課題にむけた取組みをはじめていますが、この課題などは行政だけでできるものではなく、事業者組織も、消費者・市民も、共通する目標のもとに連携しながら、それぞれが役割をはたしていくような取組みが必要なのです。そして、このような取組みをコーディネートするパートナーシップ組織がもとめられるといえます。

(環境教育の推進)

環境問題の解決のためには住民の意識をたかめ行動を促すための教育啓発が重要です。地方自治体としても、小中学校の学校教育から社会人教育まで環境教育を体系的に取り組むことが必要になっています。このための「環境学習センター」機能も必要になっています。

(地方自治体がになう各種事業)

地方自治体は、交通、水道、エネルギー、廃棄物処理、病院など、さまざまな公共事業の担い手でもあります。これらの事業を通じて住民要求にこたえ、環境政策を推進することができるのですが、他方では、これらの事業が環境に負荷をかけることもありうるわけです。

したがって、環境問題と企業の部分で取り上げた「環境経営」ということが地方自治体でも課題になることがあります。

すなわち、地方自治体における環境マネジメントシステムの構築をはかるということで、ISO14001に取組んだ地方自治体の事例も多数ありました。

また、地方自治体における物品・資材の調達に関わり、グリーン購入の取組みもすすめられてきました。なかには入札事業者に環境という側面から一定の条件制約をかける「グリーン入札」に取り組む事例もありました。

(あらたな地域のビジョンづくりへ)

こんにち重要になっているのが、環境先進自治体としてのあらたなビジョンをつくりあげ、あらたな目標の実現のために取組みを推進していくことです。とくに、地球温暖化対策、交通・エネルギー政策などが焦点になっています。

また、地域のSDGs目標をまとめることも課題になっています。

これらの取組みについては、住民側からの課題提案がもとめられるとともに、首長や議会の姿勢がとても重要になるでしょう。

政府に大きな政策・理念提示を求めながら、地方自治体発の独自のビジョンと行動を創出していく、リーダーシップあふれる政策主体としての取組みがはじまることを期待したいものです。

(「先進モデル」に学びながら)

 地方自治体が環境先進自治体にむかううえで、内外の「先進モデル」に学ぶことは大変有効なことです。

 たとえば、ドイツのフライブルグなどの「シュタットベルケ」(都市公社)の事例は注目され、日本にもその経験や教訓が紹介されています。電力、ガス、熱供給などのエネルギー事業を中心に広範なサービスを提供する公益事業体の「収益」を活用しながら、住民本位の各種の事業を組み合わせ、新しい地域の循環経済を実現していく取組みは、日本の各地ではじまった「地域循環共生圏の創出により持続可能な地域づくり」の動きにつながっているといえます。

12 環境問題と消費者・市民

(大量消費・大量廃棄社会への反省から)

 消費者・市民が環境問題を理解し、その消費生活・行動を変えたとき、市場・経済も変わるのです。

 これまで消費者・市民は「消費者は王様」といわれ、メーカーや販売事業者のいわれるままに消費生活・行動を続けてきたのではないでしょうか、

 ここにあげているのは、高度経済成長の時代に、ある広告代理店が商品開発・販売のための「戦略10訓」として使ったものだそうですが、消費者の心理を分析してうまく定式化したものといえます。

 1 もっと使わせろ  / 2 捨てさせろ

 3 無駄遣いさせろ  / 4 季節を忘れさせろ

 5 贈り物をさせろ  / 6 組み合わせで買わせろ

 7 きっかけを投じろ / 8 流行おくれにさせろ

 9 気安く買わせろ  / 10 混乱を作り出せ

 このようななかで、大量生産・大量流通・大量消費、そして大量廃棄の暮らしが創り出され、その結果、さまざまな環境問題が起きてきたといってもよいのです。

 このことに気がついた消費者・市民のなかで、「グリーンコンシューマー」を志向する動きが出始めるのです。

高度経済成長が「石油ショック」によって終焉しようとする時期に、このことを強く意識した消費者団体・グループの活動が始まりますが、とくに、80年代後半から90年代にかけて地球環境問題がクローズアップされるなかで、「地球をまもるために私にできることは何だろう」ということから、アースデー行事がよびかけられ、ごみ・リサイクル問題などにとりくむ消費者・市民が大きく広がりました。このなかで、「グリーンコンシューマー」をめざす消費者・市民の活動が日本の社会の中で力を持ち始めるのです。

(「グリーンコンシューマー」をめざす)

「グリーンコンシューマー」とは、「環境に配慮した行動ができる消費者」のことです。とくに「買い物」にあたり、環境のことを意識し、環境にやさしい商品を意識的に選択購入できる消費者のことをいいます。このような消費者が増えることにより市場のグリーン化が促進される、お買い物が社会を変えるという運動理念が形成され、強い影響力を持つに至るのです。

このような活動のなかで、以下のような「グリーンコンシューマーの10原則」が強調されます。それを最初から意識したのかどうかわかりませんが、内容的には「戦略10訓」に対抗する者になっているといえます。

 1 必要なものだけ買う

 2 ごみを買わない。容器は再利用できるものを選ぶ

 3 使い捨て商品は避け、長く使えるものを選ぶ

 4 使う段階で環境への影響が少ないものを選ぶ

 5 つくるときに環境を汚さず、つくる人の健康をそこなわないものを選ぶ

 6 自分や家族の健康や安全をそこなわないものを選ぶ

 7 使ったあと、リサイクルできるものを選ぶ

 8 再生品を選ぶ

 9 生産・流通・使用・廃棄の各段階で資源やエネルギーを浪費しないものを選ぶ

10 環境対策に積極的なお店やメーカーを選ぶ

 「環境問題と企業」の部分で「グリーン購入」について紹介しましたが、このような企業の取組みと、消費者・市民の「グリーンコンシューマー」志向の動きが連動するなかで、市場のグリーン化の課題が環境問題解決のためのひとつの課題として浮かびあがったのです。

(「グリーンな消費」から「エシカル消費」へ)

 企業の環境対応が、「環境」のみならず、さまざまな社会的課題に対応することがもとめられるなかで、CSR活動へと展開していったのと同じように、消費者・市民の立場から解決しなければならないさまざまな社会的課題について考え、行動することの重要さが強調されるようになるなかで、「グリーンな消費」から「エシカル消費」へと活動理念の広がりがみられるようになりました。すなわち、「エシカル消費」とは、「地域や社会、環境や人々に配慮して、モノやサービスを買うこと」をいうのですが、それは、毎日のお買いものが世界を変えるための一票になるのだとも言われ、たとえば、以下の活動などがイメージされました。

 1 生産者と消費者がつながる(産地指定)

 2 公正な価格で生産者を守る(フェア・トレード)

 3 海の資源を守る

 4 森の資源を守る

 5 熱帯の森と人を守る

 6 オーガニックな生活

 7 国内外の環境を守る活動の支援 

(消費者とSDGs)

「エシカル消費」については、企業のCSR活動と同じように、何を、どのようにとりあげればよいのか、明確な判断基準がないともいわれましたが、2015年に国連がSDGs(持続可能な開発目標)を決定したことにより、それにしたがって議論されることが多くなったようです。

SDGsには12番目の目標に「つくる責任、使う責任」という目標があります。商品やサービスを作り、提供する側の事業者責任と、それを使用し、消費する側の消費者・市民とを連動させながら、よりよい社会をつくりあげていこうというわけです。

消費者がライフスタイルを変え、環境をまもるだけでなく、より良い社会・経済をつくりあげることをめざして、商品・サービスの選択によって意思表示を行うことに大きな可能性を見出すことができるのではないでしょうか。

 

 

 

<参考文献>

●レイチェル・カーソン『沈黙の春』(新潮文庫)

●原田正純『水俣病』(岩波新書)

●鬼頭昭雄『異常気象と地球温暖化』(岩波新書)

●山本良一『気候危機』(岩波ブックレット)

●宇佐美誠『気候崩壊』(岩波ブックレット)

●枝廣淳子『プラスチック汚染とは何か』(岩波ブックレット)

●大島堅一『原発のコスト』(岩波新書)

●川廷昌弘『未来をつくる道具 わたしたちのSDGs』(ナツメ社)

●夫馬賢治『ESG思考』(講談社+α新書)