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ブックガイド 尾松亮著『廃炉とは何か』

ブックガイド 尾松亮著『廃炉とは何か』

最近、メデイアが、東京電力が福島第一原発の溶け落ちた核燃料(デブリ)を取り出すため、原子炉建屋全体を巨大な水槽のような構造物で囲い建屋ごと水没させる「冠水工法」を検討しているとのニュースを報じています。

福島第一原発事故から10年以上経過し、関係者の努力により、復旧作業が進んでいますが、「40年で廃炉にする」プランからみると、まだまだこの先難関続きと思われます。

今回、示されたデブリの取り出し方法のアイデアにしても、これまでに実績はなく、本当にそんなことができるのか、との指摘がされています。

このニュースと前後して尾松亮著『廃炉とは何か』(岩波ブックレット)が出版されました。

このブックレットでは、そもそも廃炉とは何かという基本的な問いかけにはじまり、スリーマイルやチェルノブイリの教訓、さらに廃炉法への展望までが示されています。今回のニュースをどう読むのかという点でも有意義な問題提起です。

このブックレットを読み進むと、「冠水工法」の評価にとどまらず、「40年廃炉プラン」もふくめて、廃炉に向けて必要なことが確認されないまま、事がすすんできたことに気づかされます。

まず、廃炉のプロセスについては、一般的には、1 原子力規制委員会に「廃止措置計画」を提出し、認可を受ける、2 発電に使用された「使用済み核燃料」の搬出、3 汚染状況の調査と除染、4 周辺設備の解体、5 原子炉などの解体、6 建屋などの解体、というステップを経て「更地にもどす」ということになるのですが、「廃炉完了」の基準を明確にすべきだとされます。

なかでも、今回、問題になったように、事故原発の廃炉については、デブリの取り出し、保管、最終処分をめぐって、技術的な困難さ、必要とされる期間の長さなどをふまえ、国、自治体、事業者などの責任を明確にするための根本的な議論が必要だとされます。

「福島第一原発で取り出しが始まろうとしている「燃料デブリ」は「放射性廃棄物」なのか、誰が最終的に引き取り管理・処分すべきものなのか」、「事故原発をどのような状態にしたら「廃炉完了」と認めるのか、その完了状態の実現に「四十年」どころではない期間が必要だとしたら、その間の長期の安全管理を誰の責任で、どのように実施するのか」、こうしたことを明確にする必要があるのだとされます。ここに廃炉法の必要があるというのです。

途中に示されるスリーマイルやチェルノブイリの教訓についてもしっかり学ぶべきです。

こうした主張の根本には「「廃炉」とは単なる発電所の解体工事ではない。二〇世紀が残した「核」から、私たちの生活環境をどこまで解放できるか。どれだけクリーンな状態で、土地や海岸線を子孫に引き継げるのか。その人類の生活圏をかけた闘い、もう一つの核廃絶なのだ」という強い意志があると読み取ることができます。

私たちも、この機会に、廃炉についてあらためて考えあう必要があるのではないでしょうか。その際、このブックレットは一つの手がかりになるのではないかとおもいます。

 

(岩波ブックレット 2022年8月刊)