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課題残したCOP27

課題残したCOP27

「損失と被害」救済のための基金創設には合意

 

11月6日から18日までの会期で、エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されたCOP27(第27回気候変動枠組条約締約国会議)は、会期を20日まで延長し、「最終文書」を確認し、閉幕しました。

今回のCOPは、ウクライナ問題もからみ難航することが予想されていたことですが、結果としては気候変動による「損失と被害」の救済のための基金の創設については合意に達したものの、求められる気候変動対策に先進国、途上国が足並みをそろえて実行に踏み出すという点では課題を残すことになりました。

 

COP27に期待されたこと

 今回のCOP27の課題は、2015年の「パリ協定」、昨年のCOP26の「グラスゴー気候合意」をふまえ、いまや「まったなし」の状態にある気候変動問題にどのように対処するのかが最大のテーマでした。事前に出されたレポートでも、現在の取組の範囲では「世界の共通目標」とした「1.5℃目標」は達成できないとされていました。他方で、気候変動の進行により、巨大台風、集中豪雨による洪水、干ばつ、山火事など、多大な被害が現実にではじめるなか、「損失と被害(Loss & Damage)」からの救済のための国際的なシステムづくりも課題として浮かび上がっていました。

 

討議の経過

 開会式の冒頭にスピーチしたCOP26議長アロック・シャルマ氏は「世界が1.5℃の目標の道筋にはない」とし、「あと何回警鐘を鳴らさねばならないのか」と強調しました。

また、今回のCOP27議長サーメハ・シュクリ氏は、温暖化による「損失と被害」の実態をふまえ「今回のCOP27の課題は資金の問題だ」と強調しました。

サイモン・スティル条約事務局長は、COP26以降、NDC(各国が決める削減目標)が十分に集約されていないことを指摘し、①1.5℃目標に沿った取組み強化、②「損失と被害」に関する議論をすすめること等を提示しました。

 翌日の首脳級会合では、冒頭、アントニオ・グテーレス国連事務総長は「この10年間に勝敗が決する」「われわれは気候地獄への高速道路で、アクセルを踏みっぱなしだ」と訴えました。  

首脳級会合には100を超える国・地域から首脳が集まったとされます。ここには、アメリカのバイデン大統領も参加し、アメリカの気候変動対策を強調し、世界全体で取組みを進めることの重要性を訴え、注目されました。

 2週目にはいり、閣僚級会合がはじまりました。議論は厳しい局面が続きました。「1.5℃目標」のために温室効果ガスの排出削減を加速させるための取組強化をめぐって、いまや主要な排出国となっている新興国に削減強化を求める先進国と、排出削減に消極的な新興国との対立が続いたと伝えられています。

他方では、気候変動による「損失と被害」の救済を求める発展途上国の要請が続きました。これにこたえるシステム作りについての議論はなかなか決着を見ることができませんでした。

やむなく会期を延長し、ギリギリの調整を行った結果、「損失と被害」救済のための基金の創設について合意に達したというのです。しかし、具体的な資金規模やそのための拠出方法などをめぐってさらに調整が必要とされることであり、次回のCOP28に討議が継続されるようです。

 

COP27の結果について

 今回のCOP27の結果について、日本政府代表団として次のようにまとめています。

 

 「気候変動対策の各分野における取組の強化を求めるCOP27全体決定「シャルム・エル・シェイク実施計画」、2030年までの緩和の野心と実施を向上するための「緩和作業計画」が採択された。加えて、ロス&ダメージ(気候変動の悪影響に伴う損失と損害)支援のための措置を講じること及びその一環としてロス&ダメージ基金(仮称)を設置することを決定するとともに、この資金面での措置(基金を含む)の運用化に関してCOP28に向けて勧告を作成するため、移行委員会の設置が決定された。」(環境省ホームページ)

 

このようにしてCOP27は閉幕したというのですが、当初の目標との関係では多くの課題を残したといわねばなりません。

 とりわけ、昨年のCOP26で確認した「1.5℃を世界共通目標に」ということについては追認した範囲にとどまり、目標にそって再生可能エネルギーへの転換、脱化石燃料をすすめるなど、具体的な取組み強化の課題は先送りされてしまったことになります。

気候変動対策にはもはや時間が残されていないという危機意識が必要です。この点ではCOP27が明確な方向を示せなかったのはとても残念なことです。

 

日本の対応に関わって

 今回のCOP27では最初から最後まで日本の存在感がありませんでした。

 首脳級会合には岸田首相の姿がありませんでした。一連の討議の中でも、日本が石炭火力発電廃止や再生可能エネルギー導入目標の引き上げなどを明示し、議論をリードすることもありませんでした。目を引いたのが「本日の化石賞」の第1号が日本であったことだけというのはいかにも残念です。

 なぜこうなるのかと言えば、日本の気候変動対策が世界の求めるレベルに達していないことによります。2020年10月、菅首相が「カーボンニュートラル宣言」を行い、それを具体化する動きがありましたが、岸田首相のもとでは、その流れをつよめるのではなく、「GX実行会議」の議論に象徴されるように、原子力政策の転換もふくめて、すべてが成長戦略として議論されているからです。

 COP27が終わったいま、あらためて日本政府の気候変動対策、脱炭素化への取り組みを本格的に強めるために、市民の声を上げていかねばならないのではないでしょうか。

 

 

※COP27の「討議の経過」についてはNGOの会議場通信Kikoの記事、各種メディアの報道をもとにまとめています。