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拡大生産者責任

拡大生産者責任(EPR=Extended Producer Responsibility

 

「持続可能な社会」と「循環経済」

 21世紀に生きる私たちは、気候変動問題をはじめ人類の未来に重大な影響を及ぼす環境問題に直面しています。このなかで、「持続可能な社会」という共通目標にむかって努力が積み重ねられています。「持続可能な社会」という場合、「脱炭素社会」「自然共生社会」とあわせて「循環型社会」ということが強調されます。京都循環経済研究所は、「趣意書」において次のように目標を掲げています。

 

 いまここに設立される「京都循環経済研究所」は、「循環経済」の発展を通じて、持続可能な社会の形成をめざすものである。

「循環経済」という用語には、「資源循環」という意味とともに、「地域循環」という意味をこめたいと考えている。

「資源循環」については、いうまでもなく、大量生産・大量消費文明への反省をふまえ、限りある資源を大切に利用し、無駄な廃棄を極力回避することにより、循環型社会の形成を推進しようとするものである。

同時に、地域のさまざまな資源を活用し、地域で「お金」が回り、地域が元気になる「地域循環」の可能性を探求することも目標にしている。

 

このような「循環経済」を形成・推進するうえで、「拡大生産者責任」は最も重要なキー概念というべきものです。SDGsの「つくる責任・つかう責任」という場合の「つくる責任」を考えるうえでも「拡大生産者責任」を明確にすることがどうしても必要です。

 

「拡大生産者責任」の定義

 「拡大生産者責任」は、製造者が製品を生産するにあたって、その製品が消費されたあと、廃棄されるときのこともふくめて責任を負うべきだという考え方です。

 このような考え方は、1990年代にはいるころ、北欧やドイツなどで主張されるようになったもので、リサイクル推進のための政策形成のなかでひろく論じられたものです。たとえば、プラスチックの容器包装材のリサイクルシステムを制度設計する議論のなかでも、それが成功したかどうか、評価が分かれるところですが、ドイツのデュアルシスステムをはじめ各種のリサイクル制度が実施されていますが、その際にも製造者にどこまで「拡大生産者責任」を求めるのかが問題になっています。

 このような議論をとりまとめるように、経済協力開発機構(OECD)が2001年に「拡大生産者責任」について「ガイダンス・マニュアル」を策定しています。そこでは、「拡大生産者責任」の定義については、次のようにまとめられています。

 

OECDはEPRを、製品に対する製造業者の物理的および(もしくは)財政的責任が、製 品ライフサイクルの使用後の段階にまで拡大される環境政策アプローチと定義する。EPR政策には以下の2つの関連する特徴がある:(1)地方自治体から上流の生産者に(物理的 および(または)財政的に、全体的にまたは部分的に)責任を転嫁する、また(2)製品の設計において環境に対する配慮を組込む誘因を生産者に与えること。

 製品ライフサイクルにおける使用後の段階における影響という点では、問題となっている環境影響を軽減するよう製品の設計変更を促す暗黙のシグナルが生産者に送られる。生産者らが責任を引き受けるのは、製品ライフサイクル中の環境影響を最小化するようその製品を設計するときであり、また設計によっては排除できない影響に対して物理的および(または)財政的責任を引き受けるときである。

EPRの第一の機能は、廃棄物管理の財政的および(または)物理的責任の、地方自治体および一般納税者から生産者への移転である。これにより処理と処分の環境コストは製品コストに組込むことができる。これは製品の環境影響を正しく反映する、また消費者がそれに従って選択できるような市場が発生する環境を創出する。(クリーン・ジャパン・センター仮訳)

 

 日本では、2000年、循環型社会形成推進基本法が制定されましたが、当然、このような議論をふまえたものになっており、「容器包装リサイクル法」をはじめ各種リサイクル法の制度設計につながったといえます。その際、「拡大生産者責任」は十分現実化されたといえるかどうか、いまあらためて検証する必要があります。

 この点については、「容器包装リサイクル法」の見直しをめぐる議論のなかで取り上げられたのですが、やはり議論は不徹底なままとりまとめがされたようです。

 このような経過もふまえて、この問題に通じた研究者の論文集『拡大生産者責任の環境経済学』(植田和弘・山川肇編、2010年、昭和堂刊)が論点整理を行っています。

 

「拡大生産者責任」をめぐっての課題

 「拡大生産者責任」をめぐっては、各国でもリサイクル制度が導入された経験をふまえて、2016年、OECDの「ガイダンス・マニュアル」の改訂が行われています。

 日本では、これをうけて、2018年、廃棄物資源循環学会が「学会誌」で特集を組むなど、あらためて「拡大生産者責任」に関する国際的な政策動向のとりまとめ、問題提起、論点整理が行われています。

 他方では、この間、プラスチックによる海洋汚染問題が国際問題の焦点になるなかで、プラスチック資源循環戦略の策定、プラスチック資源循環促進法制定されたのですが、この経過において「拡大生産者責任」の明確化については十分議論されたといえるでしょうか。

 こんご、「拡大生産者責任」について議論を前に進めるためには、一般論ではなく、製造者に対して、どの品目について、どのような手法で、どのような責任を、どこまで求めるのかを具体的に示し、その実効性についての見通しも示していく必要があるでしょう。

 

 京都循環経済研究所としても、この「拡大生産者責任」に関する問題を、重要な研究テーマとして追いかけていくことが必要だと考えています。当面、これまでの議論をふりかえりながら、昨年4月に施行されたプラスチック資源循環促進法の実施状況をフォローし、情報整理、論点整理を行っていくつもりです。